15人が本棚に入れています
本棚に追加
第6話 メリーさんの誘拐電話
息子が誘拐された。
犯人から電話が来たが、身代金の要求は来なかった。『また電話する』と言われたが、既に3時間は経過している。
遅い……タツヤは、本当に無事なのか!?
そう思っていた時。
とうとう、運命の時は来た。
「はい、もしもし!」
私が電話をとると、『私、メリーさん』という声がした。
それは機械で無理やり甲高い声に変換しているというより、本当の少女が喋っているように聴こえた。ただし、いささか不気味な声ではあったが。
しかしメリーさん? 誘拐犯の仲間なのか?
『今、××公園にいるの。息子のタツヤくんを預かっているわ』
電話の向こうからは、汽車や船の音がする。
あの公園は遊園地でもあって、地元の子どもたちの憩いの場でもある。タツヤもよく遊びに行くさびれ……歴史のある公園だ。
しかし、随分近くにいるのだな。しかも誘拐場所を教えるとは一体?
……もしや、公園でタツヤを殺害するつもりなのか!?
「そちらの要求はなんだ!? 金ならいくらでも用意するから、どうかタツヤの命だけは!」
『え、いいの?』
いいの? とはなんだ。金が目的じゃないのか。なんなんだこの女は。
じゃあ、と向こうが切り出そうとする。私はゴクリ、と唾を飲み込んだ。
『五千円で』
……はい?
『あ、多かったかしら』
「ご……五千万円か?」
『五千円です』
……安すぎない?
身代金、めちゃくちゃ安すぎない?
『できたらPa〇Payで送っていただけたらありがたいのだけど』
「わ、……私は、d払〇なんだが」
『あ、ドコ〇ユーザーなのね。じゃあ、あとでいただこうかしら』
「あとでいただく!?」
気が抜けた会話に流されそうになったが、いかん!
「ちょっと待て! あなたは、私の息子を誘拐した犯人では無いのか!?」
『え、誘拐?』
その時、『メリーさぁん!』と聞きなれた声がした。
「た、タツヤ! 無事なのか!?」
『メリーさんメリーさん、今度はジェットコースター乗りたいよお! あのガタガタする乗り物乗りたいよお!』
『あ、タツヤくん。お父さん、君がここで遊んでいること知らないのだけど』
『え、なんで~? 代わってー』
……なんか、すごく元気そうだな。
『もしもし? パパー』
「た、タツヤ! なんでそこにいるんだ!?」
『もー、パパがあの人たちに遊園地に連れていくよう言ったんじゃないの? でも方向逆だったから、一人で来ちゃったよ~』
「掻い潜ったの!? 誘拐犯の目を!?」
どうりで電話がかかってこないわけだよ! 多分今必死に探してるよ!! さすがは目を離すとどこかへ行ってしまうことに定評のある5歳児!
『でも入場料とフリーパスのお金はらったら、お金なくなっちゃったの。僕、お腹ぺこぺこで。そしたらメリーさんが出してくれて』
「通りすがりのお姉さんにお金出して貰ったの!?」
『とはいえ、さすがにタツヤくん一人で帰れるか不安だったから、タクシー呼ぶためにタツヤくんにどこに住んでるのか聞いたら、こちらの電話番号を教えてくれて』
「もしかして五千円って交通費!?」
なんということでしょう。良心的なお値段を請求したメリーさんは、良心的に行動していただけでした。
「すみません、うちの子に随分よくしていただいたようで、後でお礼をさせてください!」
『いえいえお気になさらず。あ、そう言えば』
「はい?」
『今タツヤくんのお父さんを名乗る怪しい人が目の前にいるのですが、ドッペルゲンガー?』
「そいつが誘拐犯ですッ!!」
(※この後お父さんはタツヤくんは迎えに行ったし、誘拐犯もメリーさんによって懲らしめられていました)
最初のコメントを投稿しよう!