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「なぁ。リト、かっちゃん、久しぶりに隠れんぼしないか?」
夕暮れ。
人の少なくなってきた公園で、皆川 弘道(みながわ ひろみち)が言った。
「はぁ?冗談だろ。俺たちもう中2だぞ?」
面倒くさそうな態度を取るのは、桐谷 凛人(きりたに りと)。
「いーじゃんっ!面白れぇ、やろうぜ」
前のめりに、弘道の提案に乗ったのは、勝田 篤人(かつた あつと)。
「じゃあ、決まりな」
ニシシ。はにかんだ弘道は、ベンチでうなだれているリトの手を引く。
「おい。まだやるとは、、」
「そう言うなよリト。夏休み最後の思い出と思ってさ」
屈託の無い笑みを浮かべる親友に半ば諦めた様にリトは、重い腰を上げる。
「弘道、夏休みの思い出が隠れんぼってお前・・」
夏休みもあと残す所一週間を切っていた。
続く休みで今日が何日の何曜日かなのか、既に朧気にしか分からなくなっていたが、終わりが近い事は皆分かっていた。
隠れんぼには、一つルールを追加した。
もう幼い頃と違い、知恵や工夫を身に付けているため、10分の制限をつける事にした。
そして、言い出しっぺの弘道が鬼役を務めると隠れんぼをスタートする。
「かっちゃん見ーけっ!」
「マジか、」
奇をてらう様な場所に隠れていた、かっちゃんは案外早くに見つかった。
その後、弘道とかっちゃんが二人がかりで、リトを探したが見つけられずあっという間に約束の10分が経過する。
二人がスタート位置に戻ると、ベンチにはリトが始める前と同様に何食わぬ顔で座っていた。
「なっ。」
弘道とかっちゃんは、案外に悔しそうに「リト、お前どこに隠れてたんだよー。」と迫ってきたが、「次使えなくなるから言わん」とあしらってやった。
やってみると意外と楽しく、その後も他愛ない話で盛り上がった。
「今度は、三人で海に行きたい。」
これもまた、弘道の提案だった。
今日はやけに提案してくるなと思ったが、これもまた夏休みが終わりに近い影響か何かだろうと思った。
「さすがに、今日は行けねぇな」
そう言うかっちゃんに、弘道も「そりゃそうか」と案外あっさり引き下がる。
「まぁ、また今度だな」
俺も行く事自体に反対はせず次回に見送る事にした。
「あっ。もう帰らないと。」
弘道のスマホのアラーム設定だろう。ブルブルとバイブが時間を知らせる。
「えっ。また今日も、もう帰んの?」
かっちゃんが、少しつまらなさそうな顔で弘道に言った。
たしかに夕方だが、時間はまだ4時半くらいでそれほど遅く無い。しかし、最近の弘道は親の仕事の手伝いだと言ってここ2週間ばかりは、いつもこの時間に帰っている。
「わりぃ。この埋め合わせはまた今度するよ」
そう言って弘道は、帰り支度を始めた。
「なら、俺らも今日は解散するか。」
と言うと、「えっ。リトまで帰んのー?」と、かっちゃんがまたも寂しそうな声を出した。
「かっちゃんもまだ宿題残ってんだろ?」
そう言うと、渋々納得してくれた。
「「「またな」」」
三人それぞれ自宅に向い歩き出す。
「あっ。待って二人とも」弘道が二人を呼び止めた。少し溜めると「次は、僕が隠れる番ね」とまた、はにかんだ。
「アホくさっ。もうやらんわっ」と凛人が。
「絶対に負けねぇ!」とかっちゃんが。
答えると、皆クスッと笑うと家路についた。
9月1日。
夏休みが終わり最初の登校日、教室のドアを開けるとすぐにかっちゃんと目が合った。
「よっ。」
「おは〜。一週間ぶりか?」
結局、俺たちは【隠れんぼ】をしたのを最後に特別集まる事は無く夏休みを終えていた。
まぁ、いつでも会える仲間だから特別、夏休みにこだわる必要も無い訳だ。
「弘道まだ来てないの?」と俺が尋ねる。
「まだ来てねぇな。アイツ夏休み終わった事に気付いて無いのかもよ。」ニヒヒと笑いを誘う。
クラスの連中も、聞いていたのか一笑が生まれた。
久しぶりの仲間との再会で、皆ワイワイ賑やかになっていく。
その後、チャイムから少し遅れて先生が入ってきた。お決まりの夏休み明けトークをしながらホームルームが始まると、場はとても和やかな雰囲気のまま進行した。
しかし、この後の先生の発言で状況は一変する。
特に、俺とかっちゃんにとっては雷に打たれる様な衝撃だった。
「あー。お前たち、急な話ですまないが、皆川弘道は転校した。」
「は?」
「え?」
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