夏の価値は

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教室が一気に静まり返った。 【転校】では無く【転校】と言った、それはつまり皆川弘道はもう居ないという事。 誰よりも早く動いたのはかっちゃんだった。 「は?先生なんの冗談だよ」 表情から、混乱と怒りの様なモノを感じる。 「いや、冗談なんかじゃないぞ。お前ら仲良かったのに聞いて無いのか」 かっちゃんは、赤面する。 これは、知らされていない羞恥から来るものかそれとも怒りから来るものかは分からない。 「弘道はどこに居るんですかっ!住所は!?学校は!?」 まるで怒鳴る様だった。 先生もその勢いに一度はたじろぐ様だったが、すぐに「そんなの言える訳無いだろ!個人情報だ。」と 感情的に言い返す。 ざわつきを残したままホームルームは終わると、かっちゃんが凄い形相で駆け寄ってきた。 「おいっリト。お前知ってたのか?」 「いや。初耳だ。」俺も知らなかった。 「何なんだよっ!弘道のヤツ!夏休みにそんな事一言も言わなかったぞ!」 俺は黙ったまま俯く。対照的にかっちゃんはどんどん感情的になっていく。 「何で先生も、何も教えてくれねぇんだよ!意味分からねぇ。なぁ、リト聞いてんのかよっ!」 「かっちゃん。少し黙れ。」 「くっ。」 一瞬我に戻ったかっちゃんは「くそっ」と唇を噛んだ。 なんだ? どういう事だ? 夏休み中、普通に遊んでいた親友が何も告げずに姿を消した? そう、一週間前も普通にいつも通り遊んでいた。 いつも通り? 俺は一週間前、弘道と最後に会った日の事を思い出そうと記憶を探る。 公園で遊んだ。 アイツは最後に何か言ってたか・・・? もっと深く、なるべく鮮明にあの日を、、、。 『次は、僕が隠れる番ね』 あの日のワンシーンが蘇る。 「あのバカ・・・。」 「今なんか言ったか?」 俺の横には徐々に冷静さを取り戻しつつある、かっちゃんが机の端に腰掛けている。 「ああ。たぶん、弘道のやろうとしている事が少し分かった。」 「マジ?何!?」 また熱を上げられても困るので、かっちゃんには放課後まで待てと伝えて一旦、席に帰した。その間に自分も、考えを少し整理したかった事もある。 そして、約束の放課後がやってくる。 登校日初日と言う事もあり、授業らしい授業は行われなかった。いわゆる始業式がメインの午前授業というヤツとだった。 下校のチャイムと同時に、かっちゃんが駆け寄って きた。ずっと気になって仕方がなかったんだろう、俺の前に来ると、『早く!』目で訴えかけて来る。 勿体ぶっても仕方がない。 「かっちゃん、これはアイツの遊びだよ。」 「遊び?」 やはり、コレだけじゃ分からないか。 余計イライラしているように見えた。 「ああ。隠れんぼだ。」 「はっ!?隠れんぼってリト、お前まで俺をバカにしてんのか。」 「バカになんかしていない」即答する。 「たしかに、一週間前に三人にやった、、けど、、あ。」 かっちゃんは感情的なヤツだけど、記憶力も良く勉強も俺よりも出来る。 大体、察しがついたようだ。 「あのバカっ!何だよそれっ。」 「ほんと、アイツらしい悪ふざけだ。」 ようやく二人、弘道の突拍子もない遊びに気付く事になった。 「で、どうする?」 意図に気付いたかっちゃんは一変して冷静だった。 「決まってる。あのバカを見つけるぞ。隠れんぼは見つけるまで終わらないからな。あと、アイツに負けて終わりはムカつくからな。」 「違いねぇわ。」 あの日の遊びは、まだ終わっていない。 俺たちの夏休みはまだ完結していない。
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