夏の価値は

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「正直、怪しいと思ってたんだよなぁ」とかっちゃんが言った。 「それな。アイツが親の仕事を手伝うとか想像出来ん。」 二人は、ならあの時もっと深くツッコんでおくべきだったと後悔する様にお互いを見合う。 これはアレだ。後の祭りというヤツか。 「つまり、この帰り時間が突然に早くなったのは」 推論を途中まで話すと、かっちゃんが目線を合わせてきた。 「ああ、単純に【距離】の問題だろう。」 続きの説明を任された俺は続ける。 「6時半から4時半。この2時間が弘道を見つけるためのヒントだ。要は、ここから2時間圏内に弘道は居る。」 マップアプリを起動する。 GPSが自分たちのいる東京都のあるポイントを示す、そこからおおよそ2時間圏内を円形に絞る。 移動方法は当然、徒歩、自転車、電車で掛かる時間は変わってくるが、今回は電車移動をしたと仮定する事にした。 「神奈川、埼玉、千葉、に茨城ってところか。」 「・・・・」 「・・・」 「「広っ!」」 かっちゃんと顔を見合わすとお互い苦笑いをするしか無かった。 「いや、でもさぁリト。移動手段が電車じゃないかもよ?徒歩とか自転車かも知れないよな・・。」 かっちゃんがまるで願う様に推論の修正を提案してくる。 「残念だけどかっちゃん。その可能性は無いと思う。」 「え、なんで?」 「電子マネー。」 俺は先ほど、弘道の夏休み中の変わった行動としてあげた支払い決済方法を上げる。 「これまで、現金しか使わなかったアイツが電子マネーを使い始めたのは、きっと生活で使用が必要になったからなんじゃないか?」 それに対して、かっちゃんは「でも、電子マネーなんていろいろと種類があるだろ。電車で使うヤツとは限らないじゃないか?」と推測の不足を指摘する。 たしかに、電子マネーと言ってもいくつも種類がある。クレジット系や携帯キャリアなどいろいろだ。 しかし。 「いや、俺たち学生が使える電子マネーの種類なんて限られるだろ。交通系と見て間違い無いと思うぞ。」 自分自身を納得させるよう、推測しながら説明する。 実際、47都道府県の内4県に絞れただけでも収穫はあった。 しかし、早速行き詰まる。 情報が少なすぎる。 俺は机に突っ伏しながら、夏休みの弘道の言動を思い出す。アイツは他に何か言ってなかったか。 「隠れんぼを提案、かっちゃん見つかる、俺逃げ切る、携帯アラーム、謝る弘道、解散、、、。」 【またなっ】と笑顔で別れる弘道の顔がよぎる。 「くそっ。かっちゃん、アイツは他に何か言ってなかったか?」 かっちゃんは、眉間にシワを寄せてながら唸る。「んー、他ねぇ。そんなもんじゃないか?あ。あと、あれだよ。」  「あれ?」 「海行きたいとか言ってたよな。でも、あれ?リトが言ったんだっけ?とりあえず俺じゃないのは確か。」 海? 無くなっていた、パズルのピースが見つかった感覚だった。 「たしかにあった。」 「かっちゃん、、。」 「何よ?」 「ファインプレーだ。俺は絶対そんな事は言わない。だって、俺は海が嫌い(怖い)だから。」 「おっ。」 「ああ、たぶんこれもヒントの可能性が高いぞ。弘道の居場所の近くにはきっと海がある。」 つまり、さっき絞った4県で海の無い埼玉県は除外される。 「あとリト。そうなると、茨城県の海沿いってのも距離的に厳しく無いか?」 「うん。たしかに内陸側なら、ともかく海沿いとなると除外されるな。」 候補が絞られる。 「一度整理するぞ。」 俺はマップを広げ、二人で一つのスマホを覗き込む。 「弘道が居るのは、ここからだいたい2時間圏内で、神奈川県もしくは千葉県。そして、海沿いもしくはその近くに居る可能性が高い。間違い無いか?」 「問題無いと思う。」かっちゃんも同意し、また一歩近いた事に笑みが溢れる。 その時、キーンコーンカーンコーン。 既に誰も居なくなっていた教室にチャイムの鐘が鳴り響いた。 「一旦学校を出るか。」 「だな。」 そう言って帰り支度を済ませ教室から出る。 かっちゃんが「ちょっと寄りたい所ある」と言うので付いて行く事にした。 それして俺たちは学校を後にした。
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