夏の価値は

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かっちゃんに付いてくると、そこは。 「弘道ん家じゃん。」 「捕まえるなら、少しでも犯人を知らないとな」と、今はもぬけの殻の様に静かになってしまった友人宅の前に到着した。 犯人って、、。 ただ、ひと気のない家を前にすると、弘道は本当にもうこの町には居ないのだなと再確認させられた。 「もぬけの殻だな」 「だね」 さすがに家の中には入れないので、家の廻りを見て廻る事にした。 「あっ。リト」 呼ばれて家の裏手側へ向かうと、かっちゃんがある物を指差していた。 「自転車か」 「これ弘道のヤツだよ。間違い無い。」 「引っ越しで邪魔だから置いていったんじゃないか?」 褒められた事では無いが、古巣に持ち物を置いて行く事なんて良く聞く話だ。 「いや、それは無いよリト。」 「根拠はなんだ?」 「コレ、去年の誕生日に弘道が無理言って親に買ってもらったって自慢してたくらいだもん。置いて行くなんてあり得ない。」 たしかに、目の前のマウンテンバイクはハンドルからフレームまで綺麗で細部まで手入れされているのが分かる。 「じぁ、意図的に置いて行ったって事か。」 「たぶん。」 しかも、あえて家の裏手に置いてあるのも何か意図を感じる。 その後も、何周か家の廻りを探索してみたがこれといって新しい発見は無かった。 気付けば時間も夕方。 休憩がてら、玄関先の石段に腰掛けようとかっちゃんを呼ぶ。 「一旦座らないか」 駆け寄ってくるかっちゃんが、俺を見て何かを思い出した様な表情をする。 「どうした?」 「いや、ちょっとね」 「何だよ。気になるじゃん。」 遠慮する様に横に座った。 「いやね、関係無いと思うんだけど。」 「だから何だって」 「これがまた、迷惑な話でさ、夏休み最終日にうちの玄関の前に魚の入った水槽が置いてあったんだよ。」 「魚?」 何だよソレと、鼻で笑った。 「うん。調べたらフナだった。」 ん?待てよ。 記憶が呼び起こさる。 「かっちゃん。」 「何だよ?笑えるだろ。」 「いや、俺もあったんだ。最終日にうちの玄関先に。」 「まじっ!?【フナ】が?」 「いやっ。俺の場合は、【消しゴム】だった。」 「消しゴム?普通に落としてただけじゃねぇの?」 「いや。ただの消しゴムじゃ無くて、お弁当くらいのデカい消しゴム。たまに売ってるだろ。」 「あぁー。マジ?」 「マジ」 俺とかっちゃんの家、両方に意味深に置かれていたフナと消しゴム。一気にキナ臭くなってきた。 「弘道だよ。絶対。」かっちゃんが断言する。 「ここまで来ると、俺もそう思う。」 しかし、何だ? 。 分からん。 夏休み最終日、消しゴム、フナ。何か慣例性が無いか頭をひねるが特に閃きが湧いてこない。 「ダメだ。わからん。」 俺は半ば諦めた様に空を見上げる。 あれ? 集中していて気付かなかったが、いつの間にか、かっちゃんが居なくなっている。 すると、チリンチリン。 弘道のマウンテンバイクに跨がったかっちゃんが颯爽と現れた。 「おい。それ弘道の」 「へへへ、良いだろ」 「鍵が付いてなかった?」 先ほど見た際、チェーン式のロックが掛かっていた。 「アイツは昔から、4649(ヨロシク)しかロックNo.に使ってないだ。」とドヤ顔で見下ろしてきた。 「へぇ〜。しょうもない語呂合わせだな。」 「まぁね。伊達に古い付き合いじゃないわけさ。」 「語呂合わせねぇ。」 あっ。 「かっちゃん。俺分かったかも」 「な、なんで!?」
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