第六章 想定外の解決策

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 『ロケハン』の話を聞いた時の不満げな顔を考えれば、確かに今田がちゃんと自然公園に来たのは意外だった。さらに言えば1番乗りだった。だが、そこまでだった。『万年池』の前まで来た彼はまっすぐ池の岸まで進み、腰を下ろしてしまった。それからずっとそのままだ。怜音と徳紗が忙しく動き回っていているのに気にするそぶりも見せない。一体何をしに来たんだろう? 一言言ってやりたいが、協力してもらっている立場の怜音が口を出すのも変な話だ。本当はこの場を仕切っている徳紗に注意してもらいたいのだが、こちらはこちらで完全に自分の世界に入り込んでいる。 「ねえ、菅野さん。今田くんってさ……」 「ん? ああ、大丈夫。用があったら呼ぶから。そんなことよりさ、ここでカメラの動きをこう……」  この調子だ。一体どうして今田を連れてきたんだろう? こんな状態だったら、家で『万年様』の制作に集中してもらった方がよっぽどマシだ。 「……ちょっと亀井さん、聞いてる?」  こちらが怒られてしまった。納得できない思いを飲み込む。気にしても仕方がない。動かない今田の分を怜音が働けばいいのだ。 「ごめん……ちょっとボーッとしてた。何だっけ?」  徳紗は「しっかりしてよね」と言いたげに絵コンテをシャーペンでつついた。 「カットの切り替え点の話だよ。最悪草むらの近くでカメラをめちゃくちゃに揺らすだけでもごまかせるかもしれない。でも、できることならそれはさけたいんだ」 「もっと自然に切り替えたいってこと?」 「そう。この池の付近ともう一つの水辺の両方にあるものをカメラに入れられれば、場所の移動がさりげなくなると思うんだけど……」  ここまで細かいプランを練ってきた徳紗にしては話があいまいだ。『両方にあるもの』と言われても具体的なイメージがわきづらい。 「それって、早く『もう一つの水辺』っていうのをどこにするのか決めた方がいいんじゃない?」 「いや、この自然公園に何か目を引くものがあれば、それのある場所を探したかったんだけど……」  徳紗が辺りを見回す。立て札から岸までは特徴のない土の道、その近くに生えている雑草も何の変哲もないものばかりだ。 「自然公園ならでは……っていうものはなさそうだね」  怜音の言葉に徳紗が頭を抱えた。あてにしていたほどのものがロケハンでは見つからなかったようだ。『もう一つの水辺』の件も含めて計画を作り直さないといけないかもしれない。ひとまず、彼女には一旦休んでもらおう。頭を冷やした方がいい考えも浮かぶかもしれない。そんなことを考え始めた怜音の後ろで突然声がした。
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