第六章 想定外の解決策

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「……あのさ」  思わず飛び上がってしまった。振り向くと、いつの間にか戻ってきていた今田が立っている。 「おどかさないでよ」  胸をなで下ろして抗議する怜音に、今田は不機嫌そうな目をますます細めた。 「いや……びっくりしたのはこっちなんだけど」 「それで、いきなりどうしたの?」 「これまでずっとサボってたくせに」という思いを言葉の外ににじませた。多分通じないだろうな、逆に通じたら困るなと考えながら。 「今、2人で困ってたことの解決策を見つけた……かもだよ」  やっぱり通じていない。どことなく得意げな様子だ。いや、そんなことは今どうでもいい。『解決策』なんて言われたら怜音だって気になる。今田はいったい何を……。 「いったい、何を見つけたのっ!?」  すっかり立ち直った徳紗が目を輝かせて身を乗り出す。今田は口のはしを持ち上げた。 「まあ……ついて来てよ」  2人を引き連れた今田は、立ち入り禁止のロープの辺りに戻った。そのままさっきと同じように座り込んだ。 「ねえ、どういうこと?」  尋ねる怜音に今田は黙って地面を指差す。その先には花が咲いていた。鮮やかな黄色をした大きな花びらが数枚外に向けて垂れ下がっている。 「調べたら『キショウブ』って言うらしいよ。この季節に水辺で花をつけるんだって」  説明する今田に徳紗が「なるほど!」と手を打った。 「このキショウブにカメラを合わせてカットを切る。次の映像のスタートもこの花にしておけば、動画を見てる人は場所が切り替わったなんて夢にも思わない。確かに、これならいけるかもしれない!」  徳紗は今にも踊り出しそうだ。確かにこれである程度のめどがつく。だが、怜音には一つ心配事があった。その場を現実に引き戻す。 「ちょっと待って。手がかりは見つかったけど、これから『キショウブ』のある水辺を探さなきゃいけないんだよね? それもできるだけ近いところで」 「ああ……そうか」とおとなしくなった徳紗とは反対に、今田はニヤリと笑って立ち上がる。 「それも、もう調べた」  スマホを取り出して操作した今田が「送ったよ」と言うのと同時に、怜音のポケットが震えた。彼がチャットに貼り付けたリンクは個人のブログだった。市内でいろいろな季節の花を写真に撮っているらしい。最新の記事は3日前に更新されており、キショウブの写真が載っていた。 「ここから歩いて20分くらいのところにある『ひょうたん沼』っていうところで撮ったらしいよ。『今が見頃』……だってさ」 「いける、いけるねぇ、これはいけるよ!」  徳紗が満面の笑顔で言った。 「近いうちにこの『ひょうたん沼』でのロケハンもやっちゃいたいな。それで上手いことつなげそうなら、一気に問題解決だね」  あまりの急展開に取り残されかけていた怜音もあわててうなずいた。さっきまでの行き詰まりがうそみたいだ。もしかして、徳紗はここまで見越して今田を遊ばせていたのだろうか。 「いやぁ、これはタナボタだったよ。一気に見通しが立った」  別にそんなわけでもないらしい。偶然だったようだ。そうだとしても、これは今田のファインプレーだ。少し悔しいけれど、怜音も認めるしかない。だが、さぞ得意満面だろうと思われた今田はなぜだか浮かない顔をしていた。徳紗は大はしゃぎで絵コンテにメモを取っており、気づいた様子はない。どうして、あれほどイヤな顔をしていた今田がロケハンに出てきたのか。どうして、2人を手伝うでもなく単独行動で『解決策』を探そうとしたのか。怜音には思い当たるフシがあった。 「今田くんさ……本当はわたしたちに頼み事があるんじゃない?」
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