第六章 想定外の解決策

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 今田が肩をびくりと震わせる。図星だったらしい。 「い、いきなり……何?」 「わたしたちの行き詰まりを解決して、話を切り出しやすくしようと思ったんでしょ」  自然公園に誰よりも早く来たのも、作業ではなく問題解決を最優先にしていたのも、それならうなずける。一発逆転の手柄を立てて、交換条件を出そうとしたのだ。 「そんな回りくどいことして……ぼくが何を頼むっていうんだよ?」 「詳しくはわからないけど……『万年様』の制作が上手くいっていないとか」  今田はあからさまにうろたえた。 「そうだったの? 普通に言ってくれればいいのに」  ポカンとした顔で徳紗が言う。彼女にはわからないだろう。いつだって自分の作りたいものことで頭がいっぱいだし、途中でかべにぶつかることがあればどんな手を使ってでも解決しようとすることを迷わない。そんな人間だからだ。だが、世の中には他人に借りを作ることをいやがる人もいる。今田はそちら側の人間だろうと怜音は見ていた。 「図鑑とか動画とかを見ながら作ってみようと思ったんだけどさ……」  観念したのか、おずおずと今田が切り出す。 「写真とか絵を見ながら作るのには限界があるよ。裏側がどうなっているのかとか、横はどうかとかが全然わからない」  怜音も言われてみるまで気づかなかった。確かに、亀が360度どうなっているかを見ることのできる図鑑はないだろう。身体の一部しか映っていない動画ならなおさらだ。 「撮影するのは水面から見えた部分でしょ? 最悪そこだけ映っていれば大丈夫なんじゃないかな」  怜音の言葉を聞いて2人とも「とんでもない」とばかりに首を振った。 「波や流れの関係で予想していなかった角度が見えちゃうことは全然あると思うよ。その度に撮り直しになるようなことはさけたい」 「そもそも、そんな不完全なものを完成品として差し出すのは…ぼくのプライドが許さない」  思っても見なかった剣幕にひとまず怜音は引き下がる。 「わかったよ。でも、どうするの? このままじゃ、どれだけロケハンしても撮影ができない」 「……ひとまず、本物の亀を見ておきたいな。できればどの角度からも見られる状態で」  怜音と徳紗は2人で首をひねった。今田の要求はもっともだが、それを叶える方法がわからない。 「本物の亀ってどこで見られるの?」 「……わかんない。水族館とか?」 「電車で片道2時間かかるよ」  期限が決まっている中でそれだけの時間を使うのは難しい。できればさけたいところだ。 「だったら、ペットショップとか?」 「長居はできないんじゃないかな」  時間だけではない。スケッチをしたり写真を撮ったりしていても怪しまれるだろう。そもそも、どちらの場所も望み通りの角度で亀を見ることはできない。一難去ってまた一難。新たに出てきた行き詰まりに3人で頭を抱える。しばらく考えているうちに怜音には1つ心当たりが浮かんだ。自信なさげに手を上げる。 「いい場所見つかった!?」  今にも食らいついてきそうな徳紗に「いや、まだ確かじゃないんだけど……」と後ずさりながら前置きした。 「良いあてが見つかった……かもだよ」
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