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思いがけない質問にアキラも目を丸くした。毒気を抜かれたようだ。
「え? オマエ、『万年様』のこと知らないの?」
うなずく怜音に、しばらくアキラはうなる。やがて渋々といったように訊いた。
「町外れに自然公園があるだろ。あそこに『万年池』って池があるの知ってるか?」
「もちろん」
市内では珍しい雑木林と大きな池を持つ自然公園は、住民のいこいの場所として親しまれている。怜音が小学1年生の時の遠足で行ったのもこの場所だった。『万年池』のほとりでお弁当を食べたことを覚えている。
「じゃあ、『万年』っていう池の名前がどこから来たのかは?」
怜音は首を振る。聞いたこともない。アキラは映画俳優みたいに肩をすくめて見せた。
「あれは、あの池にずっと住んでいる亀の神様の名前なんだよ。亀って言ってもそんじょそこらにいるやつとは全然違うぞ。両手で抱えるよりも大きな大亀なんだ」
そんな亀が住んでいるなら、写真を撮ったりエサをあげたりと、もっとあの池の名物になっているんじゃないだろうか。遠足に行った時にはそんな記憶はなかった。怜音の疑問をのぞいたかのようにアキラが言う。
「人前にはめったに姿を現さないんだ。だからこそ神様なんだよ。それに、ご利益もあるんだぜ。その姿を見ることができたら寿命が延びるんだ」
つまり、限りなく怪しい話と言うわけだ。昔からの言い伝えは残っていても、現在は誰も本気にしていない。そんな「由緒ある場所」の一つ。
「その話を信じてるんだね……」
手術のことは信じていないのに。そんな言葉を怜音は飲み込む。口調にも気を使った。これ以上アキラのことを怒らせたくなかったからだ。
「まあ、簡単には信じられないだろうな。ぼくもそうだったよ」
アキラは意外と冷静に、そして少し困ったように笑った。
「でも、この伝説は間違いなく本物なんだ。だってぼくは2年前の夏『万年様』に会ったんだから」
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