第七章 向こう側の協力者

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第七章 向こう側の協力者

「それで? 結局わたしのとこに来たわけだ」  週明け、休み時間の教室で池内実里はあきれたようにに言った。不機嫌な顔をして席に座っている彼女に、怜音は両手を合わせて頭を下げる。 「本当にごめん! 何とか今田くんに実物の亀を見せないと、話が前に進まなくなっちゃたんだ」 「何でわたしなわけ? あんたの撮影クルーは何してるの」と実里はどこまでもつれない。怜音はそれっぽい言い訳をいくつか考え、結局口に出すのをあきらめた。この友人には何を言いつくろったところで逆効果だからだ。少し情けないけれど正面突破で攻めるしかない。 「最後に頼りになるのはいつも実里だから。あと、クラブで飼ってる亀ならわたしたちにも貸してもらえるんじゃないかと思って」 「……後半が本音でしょ」  顔をしかめて実里が言う。やっぱり見抜かれていた。『頼りになる』と思っているのは決してうそではないのだが。 「気をつけた方がいいよ。あんた、たぶん自分で思っているより図々しい人間だから」  手加減のない小言の後で、実里はゆっくり息を吐いた。 「残念ながら、協力してあげたくても無理。今クラブで飼育している水辺の生き物は、全部『万年池』の水を抜いた時に保護してきたやつだから。前も言った通りその中に亀はいない」  実里の口調からはいつの間にか険が取れていたが、今の怜音にそんなことを気にしている余裕はなかった。あてが外れてふり出しに戻った。できるだけ早く本物の亀を手に入れる方法を考えないといけない。遅れれば遅れるほど撮影に使える時間は削られていく。 「また、こっちで考えてみるよ。何度も付き合わせてごめんね」  怜音はがっくりと肩を落とす。実里は「ちょっと待った!」と彼女のうでをつかんだ。 「話は最後まで聞こうか。打てる手がないとは一言も言ってないよ」 「それってどんな手⁉︎」  怜音はすぐさま身を起こして、実里に詰め寄る。いつかの徳紗の気持ちがわかった気がした。切羽詰まった人間は同じようなことになるみたいだ。 「うちのクラスに真山充っているじゃん?」 「ほら、アイツ」と実里はあごで教室の真ん中あたりを示す。2人の視線の先には男女混ざって、ひときわ大きな声で笑い合っているグループがいた。百瀬をはじめとして、男女それぞれクラスの中で一番『強い』生徒が集まっていた。その輪のこれまた中心にいるのが真山充だ。休日に活動しているサッカークラブではキャプテンをしていて、ポジションはFW。当然足は速いが、頭も悪くなく、その上性格は人なつっこく、男女関係なく誰とでも気さくに話す。いつもクラスの中心で仲間たちと楽しそうにワイワイしていて、だからこそ怜音からすると少し近寄りがたいところがある……そんな少年だった。 「アイツね、家で亀飼ってるよ」 「そうなの?」 「しかも、水槽じゃなくて家の庭で。エサのこととか水温のこととか訊かれたからね、確かだと思う」  家まで大きいのか。『持ってる』人間は本当に何でも持っている。 「じゃあ、言うべきことは言ったよ。あとはあんたらで何とかしな」  そのまま机に突っ伏しようとした実里は、ここでようやく怜音の浮かない顔に気づいた。 「どうしたの?」 「……真山くんに声かけてくれない?」  困ったように笑う怜音に、ぴしゃりとした言葉が飛んで来た。 「クラスメイトじゃん、自分で言いなって。大体、今さら何言ってんの。それっぽいきっかけと言い訳で話を切り出すのなんてあんたの得意分野……」  ここまで口にした実里は「ああ……」と納得したようにうなずいた。真山を中心とした輪の方にちらりと目を向ける。 「あんた、グループ苦手だもんね」
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