第十章 怜音の本心

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第十章 怜音の本心

「『ヘップバーン』で撮影?」  翌日の教室で話した時、真山は最初いい顔をしなかった。 「彼女、けっこうトシなんだぞ。無理はさせられない」  撮影で怜音たちにベタベタ触られたり、『演技』として色々やらされることを心配しているようだった。 「いや、そんなめちゃくちゃしてもらうわけじゃないよ。ただ泳いでいるところを撮らせてもらうだけで」  撮影を成立させるためには、何としてもここで真山を説き伏せないといけない。怜音は普段からは信じられないくらいのねばり強さで、『ヘップバーン』に飛んだり跳ねたりをさせるつもりは全くないということを何度も説明し続けた。彼女の努力はもちろん、最終的に真山の首を縦に振らせたのは、今田の作った『万年様』だった。 「お前らすげえな! 見れば見るほどそっくりじゃねえか」  スマホ画面上の写真を見て真山は目を丸くした。 「何か嬉しいな。ウチの家族をこれだけ丁寧に作ってもらえると」  思わず顔をほころばせた彼に、すかさず怜音は持ちかける。 「もしよければ……撮影終わったらあげようか?」 「いいのか!?」  色めく真山に怜音は深くうなずいた。大丈夫、制作者の許可は取ってある。 「……撮影の時にもう水に浸けたり、土がついたり散々してるでしょ? いいよ、大事にしまい込んどこうとは思わないから」とのことだった。 「そこまでしてくれるんなら……こっちも手を貸さないわけにはいかねえよな」 「できるだけ『ヘップバーン』には触らないこと」と固く約束させられたものの、一気に協力的になった真山によってめでたく放課後に撮影許可が出ることとなった。
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