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振り向くとコンビニの袋を差し出してきた。受け取ると、中にはチョコやグミなどのお菓子がたくさん入っていた。
「ありがとう。いつの間に買ってきてくれたの?」
「いや、あの様子だとまだまだ長引きそうだったからさ。腹減るんじゃないかと思って。お前らの言ってること呪文みたいで、オレがいても役に立てなかっただろうし」
「呪文……そうかもね」と苦笑いする怜音とは反対に真山の表情は真剣だ。
「正直、ちょっとうらやましいっていうか……すげえよお前ら。やりたいことがあって、それに向かってまっしぐらって感じじゃん。それに比べたらオレなんて空っぽなのかなって」
思いもよらなかった発言に怜音は戸惑う。何でもそつなくこなせて、毎日友達に囲まれて楽しそうに過ごしている真山充の言葉とは思えない。何か冗談を言っているのだろうか。
「いやいや……何言ってるの、サッカーチームのキャプテンが」
「いや……そりゃボールを蹴るのは楽しいし、やるからには勝ちたいって。けどさ、どこかであきらめてるところもあるんだ。クラブチームとかでサッカー漬けになってるような奴らとは勝負にならない。全国大会に出れるなんてオレを含めて誰も思ってないわけだし。試合の前の日にゲームしちゃったりとかな。まあ……毎日を何となく流してるところもあって、こんなんでいいのかなって思ったりもするんだよ」
真山は気まずそうに笑い、すぐに付け加えた。
「悪い、こんなこといきなり言われても困るよな」
怜音は小さく首を横にふった。外から見ている分には全く気づかなかったが、真山にも当然なやみがある。それが彼なりに深いものである以上、茶化したり、その身の上を単にうらやましがったりしてお茶をにごすべきではない。もっと別の言葉を用意しないといけない気がした。しばらく考えた後で口を開く。
「確かにさ……菅野さんや今田くんはすごい人だよ。自分だけの世界がちゃんとあって、形にするだけの力も持ってる。それは、真山くんやわたしには一生手に入らないものかもしれない」
真山充とは全く違う場所に立っていると思っていたが、意外と似たもの同士なのかもしれない。表向きはうまく周りと付き合えていても、どこかむなしさを抱えている。そして、徳紗や今田ような人間の『まっしぐら』な情熱にどこか憧れを抱いている。けれど、それと同時に真山は2人にないものをやっぱり持っている。それは怜音も持っていないものだ。
「でもさ……真山くんはこうやってチョコとか買ってきてくれたじゃん」
怜音は手に持った袋を軽く揺らす。真山は首をひねった。こちらの言いたいことがよくわからないようだ。
「いや、腹減るかと思ってさ。コンビニすぐだし。それだけのことだって」
「『それだけのこと』に当たり前に気づいて、実際にできるってすごいことだと思う」
徳紗や今田だったら自分たちのやりたいことに夢中で、そんな発想にはならないだろう。怜音だって、必要に迫られないとたぶんやらない。人がされてうれしいことをするのに迷いがないのは、真山充の持っている良さの一つのはずだ。しばらく黙っていた真山は、また笑みを浮かべた。だが、それはさっきまでとは違って照れくさげなものだった。
「何か、ごめんな。こっちが差し入れするつもりが、励ましてもらうような感じになっちゃって」
「いやいや、そういう気づかいは普通にありがたかったよ」
期日が迫ってきている今、3人ともアドレナリンに身を任せて作業をしている。オヤツをつまんだり、休憩をしないと誰か倒れかねない。
「まあ、とにかくお前らはすげえってことだよ。あと、何か勘違いしてるみたいだけど『お前ら』な。亀井のことも入ってるぞ」
意外な言葉に怜音は目をぱちぱちさせる。徳紗たちのような知識もなければ、「こうでないといけない」といったこだわりもない。
「わたし? わたしには何もないよ」
「いや、言い出しっぺはお前だったんだろ? それに、昔からこだわり強かったらしいじゃん。2年の学芸会の時とかさ」
その話は蒸し返されたくなかった。怜音の胸がちくりと痛む。あの学芸会の話し合いで怜音の生き方はガラリと変わってしまったのだ。
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