第十四章 あっという間の解散

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第十四章 あっという間の解散

 病院の中庭に戻ってきた怜音を撮影クルーの3人、徳紗と今田そして真山が待っていた。代表して徳紗が恐る恐るたずねる。 「どうだった、怜音?」 「大丈夫、バレてないよ。それに、喜んでもらえたみたい」  その答えに一同の緊張が解けた。 「その『アキラくん』とはちゃんと話ができたのか?」 「ありがとう、真山くん。さすがに、手術前日だからね。そこまで長い話はしてないけど……一番大事なことは伝えられた気がする」 「でも、大したもんだよね。最後の最後までだまし切るんだから。表情もずっとポーカーフェイスだったんでしょ?」 「いや、やめてよカントク。大変だったんだよ。もう、ずっと心臓バクバクで」 「……面の皮が厚いだけなんじゃないの?」 「今田くん……何でそういう水を差すようなことを言うかなあ」  開放感でひとしきりはしゃいだ怜音は、改めて真面目な顔を作った。 「みんな……本当にありがとうね。わたしのワガママを形にできたのはみんなのおかげだから」  いいことを言ったつもりだったのだが、結果は散々だった。徳紗は「別に怜音のためじゃないよ。面白そうだったから乗っかっただけ」と言ってあっけらかんと笑い、今田は「……自分のためだと思ってたの? 自意識過剰なんじゃないの」となぜか逆ギレ気味だった。真山だけが「よかったなー」とニコニコしている。 「それでさ、お前らこれからどうすんの?」  その真山が手を打ち鳴らした。 「これからって?」 「いや、こういうのって終わったら普通打ち上げとかやるじゃん。その辺どうすんのかなと思ってさ」  そんな発想は全くなかった。本物の撮影隊はそういうことをするものなのだろうか。だが、言い出しっぺはすまなそうに付け加える。 「ただ、オレはこの後練習なんだよ。だから、悪いけどやるんだったら3人で楽しんでくれ」  そのまま「『巨大ヘップバーン』は後でちゃんとくれよー」と言って走って行ってしまった。残された怜音はあとの2人に一応持ちかける。 「どうする? ファミレスとか、行く?」  先に反応したのは今田だった。 「冗談でしょ? ここまで撮影のせいで、作りたいものたくさんガマンしてるんだけど……これから取り返させてもらう」  まくし立てた勢いで、そのままスタスタ歩いて行ってしまった。彼の背中に向かって「何だかんだありがとねー」と呼びかける。ちゃんと聞こえただろうか。 「カントクは?」 「あー、悪いんだけどね。もう次の話が進んじゃってて。2丁目の洋館で心霊映像を撮る話なんだけど……聞きたい?」 「えっと、今度にして」  このタイミングでそんな情報量の多い話を聞ける気がしない。「だよね」と笑った徳紗は、怜音に目を合わせた。 「楽しかったよ、怜音。また楽しい話があったらいつでも乗るから」  小さくうなずく。それだけ確認した徳紗は片手を上げて去って行った。怜音は深くため息をつくと、ベンチに腰を下ろす。 「……誰もいなくなっちゃった」  協調性のかけらもない。けれど、何だかそれがこの撮影クルーたちらしくもあった。突然ポケットの中でスマホが震え始めた。見ると実里から電話だ。 「あ、怜音? わたし今回の件で割と協力したよね? かなりと言ってもいいよね? そこでさ、ものは相談なんだけど……今、生物クラブで掻い掘りの水を戻す準備をしてるんだよね。だけど全然人が足りなくて。だからさ、ヘルプで来てくれない? 今から、大至急で。繰り返すようだけど、わたしは気乗りしないながらも今回割と……」 「わかった、すぐ行くよ」  怜音はゆっくり伸びをしながら、そう答えた。
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