第三話 新しい友達

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ボクたちのクラスの歌は「南国のペンギン」に決まったけど、音楽発表会は十一月だ。 九月の間は音楽の授業で曲を聴いたり、楽譜を読んだり、パートを分けたりして練習は少しずつ進んだ。 清音さんは音楽の授業では皆と一緒に普通に歌を歌っていた。 ボクはびっくりしたんだけど、クラスの皆は驚いてなかったから、多分一学期も歌は歌ってたんだろうな。 今までそんなことにも気付いてなかった自分がちょっとだけ恥ずかしくなった。 亮介は普段から授業中もチラチラ米倉さんのことを見てるんだけど、合唱中も見ようとしちゃうのか「浅野(あさの)くーん、先生の指揮棒はここよー」って山村先生に今日も注意されていた。 あれ、そういえば米倉さんも九月の初めの頃はよく亮介のことを見てた気がするんだけど、最近はあんまり廊下側を見てる様子がないなぁ。 学校ではわざと見ないようにしてるとか? なんとなく気になって、一番後ろの席からそっと米倉さんの様子を見ていると、時々ハートマークを浮かべていることに気づいた。 今までは、亮介のことでも考えてるのかなって思ってた。 だって、亮介もしょっちゅうハートマークを出すし。でも亮介がハートマークを出すときは、たいてい米倉さんを見てるんだよね。 まあ時々思い出しハートマークみたいなのを出してることもあるけど。 でも米倉さんがハートマークを出すとき、米倉さんは決まって窓際の前の方を見てる。 一体何をみてるんだろう。 ボクが首をかしげると、突然目の前で電球マークが大量発生した。 内藤君だ。 えーと、なんだっけ。今何か考えるように先生言ったっけ? 黒板を見れば「十五分まで」と書かれている。 クラスの皆もかわるがわる電球マークや何かに気づいたような三本線を出していた。 わ。どうしよう。全然聞いてなかった。 隣を見るも、清音さんはいつものを顔をちょっとしかめてノートをにらんでいる。 真剣に考えてるとこ邪魔するのは気がひけるなぁ。 視線を前に戻せば、内藤君はアイデアを出し終わったのか、頭上には爽やかな音符マークを揺らしていた。 ボクは思い切ってその背中をトントンとつついた。 内藤君は『!』を出して振り返る。 「内藤君、ごめん、ボク先生の話聞いてなくて……」 「……」 内藤君は一瞬何かに悩むような効果を出してから「教科書のこれ、自分なりにアイデアを三つ以上出す」と教科書を指して教えてくれた。 「ありがとう、助かったよ」 ボクがお礼を言うと、内藤君は「十五分まで」と一言足して前に向き直った。 よーしこの質問だね。 ボクは教科書を読んで時計を見上げる。残り時間はあと五分くらいだ。 えーっと……。 と考え始めたボクの視界を、内藤君のまき散らした花が埋め尽くした。 うわっ。 えっとこの花は……すみれかなぁ? 紫の花の他に青い色をしたのもチラホラ混ざってる。慎ましくて凛とした感じは内藤君らしいのかも知れない。 ボクは椅子を少し引くと、ノートを自分の手前ギリギリに寄せる。 そうしないと内藤君の周りを舞う花でノートも教科書も見えないから。 ボクのうっかりを内藤君に助けてもらったのに、こんなに喜んでもらえるとなんだか恥ずかしい気さえする。 「はい、そこまで。じゃあ皆のアイデアを発表してもらいます」 えっ、まだ一つしか思いつかなかったし、書けてもいない。 「そうねー、じゃあ窓際の一番後ろから」 っていきなりボクじゃん! 「発表するのは一人一つでいいわよ。最後にノートを回収します」 よかった、ギリギリセーフだ。 ボクは席を立つと、思いついたばかりのアイデアを口にした。
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