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「京也、またな」
「また明日ね」
放課後。いつものように正門前で亮介と別れる。
最初の頃は待ち合わせ場所に走っていた亮介も、最近は少し落ち着いてきたのか歩くようになったなぁ。なんて思いながらその背をぼんやり見送る。
肩をトントンと叩かれて振り返ると、清音さんがいた。
清音さんは何も言わないけど小さく首をかしげる。
それだけで、なんだか「一緒に帰ろう」と誘われているような気がするから不思議だ。
「一緒に帰ろっか」
ボクが言うと、わずかに頷く清音さんの周りにほんわか花が舞った。
「あ、内藤君だ」
学校の角の信号に、内藤君が立っている。
ボクは思わず早足になった。
反対の歩行者用信号が点滅を始める。このままではボクが追いつく着く前に、内藤君は歩き出してしまいそうだ。
走ろうか、と思ってから今日は一人じゃなかったことに気づく。
早足のまま振り返ると、清音さんはグッと片手で拳を見せると、走り出した。
一瞬遅れて、ボクも信号目指して駆け出す。
なんとかギリギリ信号を渡り切ると、ボクたちはその勢いのまま内藤君の背中を追いかけた。
「内藤君っ!」
内藤君が『!』を出して足を止める。
キョロキョロした内藤君は、走ってくるボクたちに気づくと一瞬だけ驚いた顔をして、それから、眉を寄せると口をギュッと引き結んだ。
その間に、『!』、『?』、それからピコピコピコンといつもの電球連打、最後にどんよりと嫌な雰囲気の渦に包まれた。
えー……と、これはボクに声をかけられたのが意外で、原因をいくつか思いついて……、で、今出てるどよーんみたいなのはなんだろう。
ボクにイライラしてるような、ギザギザした感じではないけど、何か悩んでるような、苦しんでる時みたいな……。
「内藤君、今日はありがとうね」
ボクが声をかけると、内藤君はぶっきらぼうに答えた。
「あ……、ああ。そのことなら気にしなくていい」
そんな内藤君の周りにふわふわパステルな空間が生まれる。
虹のかかった雲の合間を、ユメカワなユニコーンがパタパタ飛び回っている。
待って?
それ嬉しいの?
そんなクールな態度して、そんなファンシーな心境なの?
いや待って、ほんとに待って。
ギャップがありすぎてボク笑いを堪えるのが難しいんだけど。
ボクは、どうしても堪えきれなくて、両手で顔をおおってしゃがみ込む。
「……どうした」
内藤君が心配してくれる。
どうしたのか聞きたいのはボクの方だよと思いつつ、ボクは平常心平常心……と心で唱えて立ち上がる。
「ごめん、えっと……ちょっと走ってきたら、お腹痛くなっちゃって」
まさか内藤君が面白すぎてとは言えないので、適当にごまかして苦笑する。
目尻に滲んだ涙を指でこすると、二人が心配そうにこちらを見ていた。
いや、二人とも顔は真顔……よりちょっとこわい顔だけど。
背景がうるうるしてる。
「もう大丈夫だよ。心配しないで。ボク内藤君と話がしてみたくって、慌てて走っちゃって……、清音さんもごめんね。一緒に走らせちゃって」
ぷるぷる。と清音さんが首を振る。
内藤君の背景には稲妻のような光が飛び交った。
これは……ベタフラ!?
これってショッキングな時にその衝撃っぷりを表現するやつだよね?
えっ、どういう方向でショックだったの!?
ボクは内心焦りながらたずねる。
「内藤君は人と話すのって、苦手? あ、筆談とかでもいいんだけど……」
内藤君は少し答えに悩んでから、ハッキリ答えた。
「人と話すのは大好きだ。でも話し出すと止められなくなる」
「え……?」
そこから先は内藤君の独壇場だった。
早口でのマシンガントークが途切れることなく続く。
どうして普段喋らないようにしてるのか。
喋り出すとなかなか自分では止められなくなる事や、それでどんな失敗をしてきたか。
自分は話せばスッキリするし楽しいけど、それで友達が嫌な気持ちになるなら、話さないほうがよいと思っていること。
家ではたくさん喋っていることや、家で飼っているペットのハムスターの事や、ハムスターのケージは最近とても種類があってファンシーなシリーズに妹とハマっていること。
そのまま話はどんどん逸れてゆき、密輸されたエリマキトカゲが船で海を渡る頃、ボクたちはマンション前についていた。
「すまない。僕ばかり話してしまった」
内藤君が申し訳なさそうに頭を下げる。
「あ、ううん。びっくりしたけど、内藤君のお話楽しかったよ」
ボクの隣ではコクコクと清音さんも頷いている。
「よかったら、また内藤君のお話し聞かせてね」
「っ! ああ、僕の話でよければいくらでも!」
そう答えた内藤君の背景は、とってもハッピーでユメカワだった。
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