第四話 ひとりで歌う合唱歌

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授業中も米倉さんたちはずっともやもやを背負っていた。 今日は学活がなくてよかった……とは思うものの、明日はどうなるんだろう。 「京也、またな……」 校門を出ると、亮介が力無く手をふった。 「う、うん」 亮介はとりあえず今日も待ち合わせ場所に行ってみるらしい。 「あー……、別れるとか言われねーといーなぁ……」 弱気な亮介を「だ、大丈夫だよ、きっと」と根拠なく励まして、とぼとぼ歩く後ろ姿を見送る。 「佐々田君、また明日!」 明るく声をかけられて振り返れば、亮介よりも背が高くて肩幅もあってイケメンの阿部君が爽やかな笑顔で去ってゆく。 「あ、うん。また明日ねっ」 確かに顔がいい。あと声も低くて、大人っぽい。 阿部君も少し前まで身長は亮介と同じくらいだったのに、夏休みの間にぐんと伸びて、声も低くなっていた。 ああそうか。米倉さんが時々見てた窓の方。 あれは阿部君をみてたのか。 ボクみたいに感情が見えなくても、あれだけ米倉さんのことを見てた亮介なら米倉さんが授業中に何をみてるかくらい分かってたのかもしれないなぁ。 ずしんと胸が重くなる。 ボクは恋愛はよくわからないけど、亮介が辛いだろうなって事はわかるよ。 トンっとボクの視界に踏み出してくる足と、揺れるスカート。 視線を上げれば、ランドセルの肩ベルトを握る両手にかかる、サラサラの長い髪。 ボクはいつの間にか下を向いていたみたいだ。 ボクと目が合うと、清音さんはくりっと首をかしげた。 この仕草、リスとかウサギとか、そんな小動物ぽくて可愛いよね。 『どうしたの?』って、ボクのことを心配してくれてるみたいだ。 反対側からは内藤君が「どうかしたのか? 何か困ったことがあるならなんでも話してくれたらいい。悩みや相談は人に話すだけでストレスが和らぐとネットにも書いてあった。あ。出典はちゃんと信頼のおけるウエブサイトだぞ。僕は人の話を聞くのがあまり得意ではないが、佐々田君の言葉なら最後まで聞くと約束しよう」と何やら一方的に約束してくれている。 「ふふ、ありがとう、大丈夫だよ。ボクはなんともないから」 ボクは思わず笑ってしまった。 だって嬉しかったんだ。 ボクが亮介を心配するように、ボクにもボクのことを心配してくれる友達がいてくれることが。 本当だろうかと追求してくる二人に、苦笑しながら、ボクは亮介の話をした。 ……もちろん、名前は伏せて、事情もかいつまんでだけど。 二人に聞いてもらうと、確かに胸が軽くなったような気がした。 見上げると、曇り空から晴れ間がのぞいている。 少し先に、二人の住む大きなマンションも見える。 いつの間にかボクたちはこんな風に、三人一緒に帰るようになっていた。 なんか不思議だよね。 ボクは卒業するまでずっと帰りは亮介と一緒だと思ってたのに、それが、亮介が米倉さんと付き合い始めて、清音さんと内藤君が引っ越してきて……。 ボクはこの三人で一緒に帰るのが、すごく好きだ。 基本は内藤君がずーっと喋ってて、清音さんはずーっと黙ってるんだけど、ボクには清音さんの反応も見えるから『うんうん。そうだよね』なんて思いながら相槌を打つ。 亮介相手だと、ちょっと上の空だと「おい、京也聞いてんのか?」って言われちゃうんだけど、内藤君は自分が話すのに夢中だからボクがぼんやりしてても全然気にしてないし、聞き逃したところは聞き直せばいくらでも話してくれた。 何より、内藤君はその知識の量が半端ない。ジャンルも自然から科学まで様々だし。話し方はちょっと堅いけど、そこもなんだか内藤君らしくて良いと思う。 「明後日はいよいよ音楽発表会だね」 ボクが言うと、清音さんはキリッとした顔でグッと握り拳を作って応えた。 やる気満々みたいだ。 「緊張してる?」 清音さんは、ぷるぷる。とはっきり首を振る。 「え、緊張しないの? すごいなぁ。ボクなら絶対緊張しちゃうよ……」 清音さんはメモ帳の外側に貼ってあるカレンダーで明後日を指す。 そして片手の親指と人差し指で指一本ぶんくらいの隙間を作って見せた。 「本番は少し緊張するということか」と、内藤君が訳すと清音さんもコクンと頷く。 「そっか、流石に本番は緊張しちゃうよね。あ、でも少しなら良いことだよね。先生も本番には緊張感を持って挑むようにって今日のリハーサルでも言ってたから」 ボクの言葉に、清音さんはコクコクと頷いた。
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