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一時はハラハラしたけど、音楽発表会は大成功だった。
トイレから出てきた清音さんはスッキリした顔をしていて、皆の前でいつもの堂々とした歌声を披露してくれた。
ボクは、客席いっぱいのキラキラを清音さんにも見せてあげたいと思った。
皆清音さんの歌にこんなに心動かされて、感動してるんだよって。
特に六年生の保護者席は感情の盛り上がりがすごくて、泣いてるお母さんもいっぱいいた。
そっか……。そうだよね。
これがボクたちの、この小学校で最後の音楽発表会だったんだ。
一年生の頃、鍵盤ハーモニカで初めて音楽を演奏して。三年からはリコーダーも練習して……。夏休みには毎日練習カードがあって面倒だったけど、そうやってきたから、今はこんな風に難しい曲だって演奏できるようになったんだもんね。
「いやー、良かったよなっ! 最後の音楽発表会で優勝できてさ!」
その日の帰り道。亮介はそう言ってボクのランドセルに腕を乗せた。
あんまり体重をかけられると、重いんだけどなぁ。
「俺、今日からまっすぐ家に帰ることにするわ」と亮介がボクに言ったのは給食の後だった。
チラと後ろを振り返ると、内藤君と清音さんがなぜか不満そうな効果を背負って歩いている。
内藤君は話し相手が取られちゃったからだとして、清音さんはなんでだろ。あ。もしかして今日のお礼を帰りに言おうと思ってた。とか?
「俺が居ない間、京也は一人でさみしーく帰ってたんだろ? これからはまた俺と一緒に帰れて嬉しいよな!」
亮介の言葉に何て返そうか迷う間に、内藤君が答える。
「佐々田君は毎日僕と清音さんと帰っていた。何も寂しいことなどない。そもそも、浅野君の家は駅の方面じゃないのか?」
「内藤喋んのかよ!」
内藤君は喋るよ。むしろめちゃくちゃ喋るよ。
今までだって、授業の時はちゃんと答えてるし、そんな驚くとこかなぁ?
まあ清音さんが喋ったら、ボクも驚くけどね。
それにしても、あんなに堂々と歌が歌えるのに喋らないのはどうしてなんだろう。
「俺ん家はこっちなんだよ。向こうにはちょっと用事があっただけだ。な、京也」
「うん、亮介の家がこっちなのは本当だよ」
ボクが言うと内藤君はちょっとだけモヤっとしてから、ピコンっと電球を出すとそのまま三つほど電球を連打した。
あ。もしかして、こないだの『ボクの友達』が亮介だってバレたかな。
「ボクも最初は亮介と帰れなくて寂しかったけど、今は新しい友達もできたし、全然寂しくないよ」
ボクの答えに、亮介がガックリする。
「ぅおーい、お前は相変わらずだな。もーちょい空気読めよ。ここは嘘でも寂しいってゆーとこだろーが」
口調は元気そうだけど、亮介の周りの空気はかなりしょんぼりしている。
「ボクと亮介だけならそういう事にしてもいいんだけど、内藤君と清音さんが聞いてるからね」
チラと振り返ると、後ろの二人の周囲にぱあっと花が舞う。
「『寂しかった』なんて言っても、嘘だってバレちゃうよ。だってボクは二人と帰るのがすごく楽しかったから」
ボクは二人に聞こえるように、ハッキリ言った。
すると、それまで遠慮がちに後ろを歩いていた二人が、トトト、と小走りでボクの横に回ってくる。いやいや、六年生の体格でこの歩道内に横四人は流石に難しいよ?
押し出されるようにして縁石の上に上がった亮介の腕がボクのランドセルから浮くと、清音さんが亮介の腕をペイっと払った。
えええ!?
清音さんってそんなことしちゃう子なんだ?
確かに、喋りはしないんだけど、清音さんってそんなに内気じゃないよね。
むしろ結構いつでも強気だよね?
「浅野君が自身の都合で佐々田君を一人にしたのだとしたら、いつでも佐々田君の隣に戻れると思っているのは少し都合が良すぎるんじゃないだろうか」
内藤君の言葉に、清音さんがコクコク頷いて走り書きしたメモを亮介に突き出す。
『おめーの席ねぇから!』
「清音さん意外と暴言吐く人!?」
亮介の周りのしょんぼりが、あまりの衝撃に吹き飛ぶ。
「ああ、これはこういうネタだから口調まで気にする必要はないが、内容としては僕も同意だ」
「ぇー……なんだよお前ら、はみ出しもんの集まりかと思ったら、思ったより仲良いな」
亮介の周りにまたしょんぼりが戻ってくる。
「失礼な事を言うんじゃない。僕ははみ出している自覚があるが、佐々田君は至って良識的な優良児童だ」
内藤君、清音さんのことはフォローしないんだ?
『◯す』
「伏せてる方が余計こえーよ!」
清音さんのメモで、また亮介の周りのモヤモヤが吹き飛んだ。
ボクは二人がボクを大切にしようとしてくれるのがくすぐったくて、引き締まらない顔のままで仲裁に入った。
「まあまあ、亮介はちょっと自分勝手なだけで、悪いやつじゃないんだよ」
「それフォローになってねーからな!?」
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