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「ああそう、そうだったわね。うんうん」先生が頷きながら二人のノートを交互に覗き込む。
字は雑だけど、二人で五枚分の発表用の用紙と発表の中身を書き出すのに五分とかからなかったのはすごい。
「二人ともすごいわ、どちらもバッチリね!」
内容を確認した先生の声を合図に、マジックを構えて待っていた松本さんと川谷さんが画用紙に中身を書き写し始める。
ボクと亮介も同じように書き始めるけど、1冊のノートを四人で見るのは狭いな……。と思っていたら、にゅっと白くて綺麗な手がのびて、びりっと豪快にページを破り取った。
「清音さん、なるべくノートのページは破かないでね」
先生が慌てて注意するも、時間がないからか言い方が優しい。
清音さんはノートを松本さんと川谷さんに、千切った一枚をボクと亮介の間に、もう一枚を自分の前に置いて書き始める。
先生は内藤君のノートへ何やらサラサラと書き加えてから「コピーをとってくるわね」と早足で教室を出て行った。
ふ。と画用紙に影がさしてボクは顔をあげる。
「あの、佐々田君、何か手伝えることある?」
気付けば、クラスの皆も気になっていたのか、一人、また一人と立ち上がってこちらを覗き込んでいた。
「ありがとう!」
ボクは嬉しくて、笑顔で答える。
「内藤君」と振り返ると、内藤君はボクが書き終えた紙の端を指して「じゃあここに、この花を」と外国語の教科書から花の絵を指した。
いつの間に外国語の教科書持ってたの? あ、先生が出かけてからか。
「えっと、これって、こんな風に描いてもいいかな?」
ボクはもう一度内藤君を見る。内藤君は頷いた。
「うん、ありがとう、助かるよ!」
「佐々田君、俺も手伝えるけどなんかやることある?」
「あ、えっと」
内藤君はボクの斜め後ろから、外国語の教科書を出してまた絵を指示した。
え、ちょっと待って?
それ二冊目じゃない?
よく見れば内藤君はまだ二冊外国語の教科書を手にしている。
それはどこから……?
ボクの視線に気付いたのか、内藤君は教科書の裏表紙を見せる。そこには今日休んだ二人の名前が書かれていた。
い、いつの間に!?
「終わったー」と文字を書き終えて一息ついた松本さんと川谷さんにも、内藤君は教科書を渡して絵を指示する。
「えー、ここって絵はなかったでしょ?」
「ある方がわかりやすいし見栄えがいい」
「うーん……仕方ないなぁ」
「最後の発表会だもんね。もうひと頑張りしちゃうか」
ボクも何か描くのがあるかな。絵はあんまり得意じゃないけど……。
すると、また一人「佐々田君、何か手伝おうか」と声をかけてくれる。
いや、ありがたい。ありがたいんだけど。
……なんで皆ボクに声をかけるのかな?
ボクに聞くより内藤君か清音さんに聞くほうがいいんじゃないかな?
内藤君は字を書き終えた亮介をつかまえて、ノートを見せながら読むところを教えている。
あれ、そういえば米倉さんは……?
教室を見渡すと、米倉さんはなぜか窓際で外を眺めていた。
ちょっと待って?
ボクたちは、米倉さんと亮介の発表の手伝いをしてるんだよね?
呼んでこなきゃ、と思ったボクの背に「佐々田くーん」と声がかかる。
だからどうしてボク?
駆けつければ「これでいいかな?」と花を描いてくれた子が言った。
「うわぁ、すごい! お花が本物みたいだ!」
思わず声を上げると、手伝ってくれてた子達が教えてくれる。
「山上さんは花を育てるのが好きなんだよ」
「かなちゃんの家すごいんだよ、ベランダがジャングルみたいなの!」
「ジャングルは言い過ぎだよぅ」
恥ずかしそうな山上さんとはボクは去年も同じクラスだったのに、そんな特技があったなんて全然知らなかった。
「生き生きしてて、とっても綺麗だね」
ボクの言葉に、山上さんは嬉しそうに笑った。
「えへへ。お役に立てたなら、良かったよ」
ほんわか舞う花は、ボクの知らない花だ。
きっと山上さんならわかるんだろうな。
時計を見れば一時間目が終わるまでは残り十五分、会場になる多目的室へ移動を始めるのは、一時間目終了五分前のはずだ。
画用紙を見渡せば、まだ四枚は描きかけだけど、線は描き終えて色を塗ってる段階だからこのままでも発表は十分できそうだ。
って、そうじゃなかった。今は米倉さんを……。
「米倉さんはやらないの?」
窓際で米倉さんに声をかけたのは、ボクでも亮介でもなくて、阿部君だった。
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