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第二話 神様からもらったもの
二学期が始まって、数日。
なんとか宿題は終わらせたボクだけど、田舎から帰ってしばらくは大変だった。
宿題も大変だったけど、それより神様がくれたらしいこの能力が……。
あれから、ボクは視界に入る人の感情が見えるようになった。
どんな風に見えるのかというと、これがまるで漫画のようなんだ。
ボクは、一学期の漢字おさらいテストの用紙からそうっと視線を上げる。
すると、前の席の子たちの周りに浮かぶ色々な感情が見えた。
左端の子には「…」というマークが見える。あれは、もう解けそうなとこが全然ないのかな?
隣の子はまだ一生懸命考えてるみたい。あせあせと汗マークが出てる。
その隣の子の周りにはずううんと沈んだような背景が見える。
落ち込んでるのかな? 勉強してきたのにダメだったとか?
と、まあこんな具合なんだ。
感情がなんとなく雰囲気で分かるだけで、考えていることまで分かるわけじゃないから、カンニングはできない。神様も悪用はダメって言ってたし、ボクも心まで読めちゃったら相手に悪いと思う。だからこれはきっとボクに『ちょうどいい』能力なんだろうな。
この能力のおかげで、お母さんがイライラしてる最中に声をかけてとばっちりを受けることも無くなったし、妹に「こっちの服とこっちの服、どっちが似合う?」って聞かれた時も「えーと」って右を見たり左を見たりすれば妹の感情が見えるから、妹の喜ぶ方を選んで「やっぱり? こっちだよね!」って言ってもらえた。
神様には本当に感謝してる。
でも、こうも目に入る全員の感情が見えてしまうと、学校みたいに人が集まる場所では情報が多すぎて、ちょっと大変なんだよね。
「はい、ここまでー。テスト用紙は後ろから前に回してねー」
先生の言葉に、教室は皆の感情でいっぱいになった。
「京也、テストどうだった?」
休み時間、亮介がボクの机に来た。
亮介は何やらご機嫌みたいで、音符のマークが出てる。
「うんまあぼちぼち」
「お前漢字苦手だもんな。それより聞いてくれよ!」
「どうしたの?」
「あのスーパーガイズのライブチケットが取れたんだよ!」
「へー、よかったね」
でもそれって女子に人気の男性アイドルグループだよね?
亮介が好きだったなんて知らなかった。
亮介はボクにこそこそ耳打ちする。
「彩ちゃんに『チケット取れたらデートに誘ってね』って言われてさ」
なるほど、米倉さんのためだったのか。
隣の席の米倉さんを見れば、キラキラと期待するような光を出してこちらを見ていた。
亮介が小さく『いいね』のポーズをする。
亮介はボクに言うフリをして、米倉さんに伝えたかったのか。
亮介は休み前よりもさらに米倉さんにハマっているらしく、学校の帰りもボクと一緒には帰らなくなった。
米倉さんの家は亮介の家とは方向が違うのに、亮介はわざわざ彼女を送って、それから帰っているらしい。
「それ大変じゃないの?」と聞いたボクに
「だってさ『学校ではあんまり話できないから、帰りだけでも一緒に居たくて』なんて言うんだぜ? 可愛すぎるだろ!」と亮介は答えた。
「はい、席についてー」
先生の声に、亮介が席に戻る。
「今日の学活では、席替えと音楽発表会の曲を決めるよー。やる事多いからサクサクねー」
あ、そっか、席替え……。
ボクは米倉さんの隣じゃなくなるんだ。
亮介の近くの席だといいなぁ。
でも亮介はボクより米倉さんの近くになりたいんだろうな。
教室には様々な感情が入り混じってる。
席替えが嬉しい人、残念な人、色々だ。
米倉さんは嬉しいみたいでワクワクした背景を背負っていた。
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