ワイルドストロベリーに願いを

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「先生はワイルドストロベリーの噂を信じてるんですか」 「そうだな」  今年の春に園芸部の顧問の先生から手の平サイズの苺を受け取った。  イネ科のハーブで白い花を咲かせ、小さな赤い実が育つ。幸運を招くストロベリーと言われ、その花は恋愛成就させると風説され一大(いちだい)ブームを引き起こした。 「恋は実ったんですか」 「さてな……どうなんだろうなぁ」  曖昧にはぐらかされモヤっとする。  ふいに先生の首もとがキラリと光った。  しゃがんだ拍子に襟元からネックレスがこぼれ、可愛らしい女物の指輪が顔を出す。婚約指輪だろうか。ペンタスの花を手入する先生に目を走らせながら、そのピンクダイヤの指輪を見る。ツキンと胸が痛んだ。  先生との出会いは去年の春。っと言っても、国語の先生だったので顔だけは知っていた。無愛想で無口、淡々と授業を進める黒縁メガネの冴えない男。  いつもニコリともせず、話しかけても余計なことは言わず、クラスのムードメーカーが面白いことを発言しても動じない。あだ名は鉄仮面。正直、存在が薄すぎて一年間は記憶にない。その男がまさか、ガーデンハウスで花を育てているなど想像が出来るはずもなかった。  先生が育てているのは季節の花や野菜。  それらは小さな花壇とプランターで栽培していた。春ならチューリップやラナンキュラスなどの色とりどりの花か咲き誇り、野菜はプチトマトやきゅうりを作っていた。
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