撫子 (15歳と4か月)

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侯爵家では、従弟が嬉しそうに出迎えてくれた。 「久しぶりね、楓様。また背が伸びられたのね」 半年前のお茶会の時からまた大きくなってるわ。 私の背が追い抜かれたのはいつだったかしら。本当に男の子ってどんどん変わってしまうのねぇ。 「まあね。撫子姉さま、会いたかったよ」 楓ったら、平気で手を差し出して。エスコートを交代してしまった。 もう魔法部勤めをしているのだから、子どものような態度はいけないわ。 ・・・そう思うけど。 ひとりっこの私には、この侯爵家のいとこ3人が弟妹のようなもの。 咎めるようなことは言えなくて、婚約者を振り向くと・・・彼はアルカイックスマイルで頷き、後ろをついてきてくれた。 主催者の侯爵夫妻にご挨拶。 叔母さまは楓を叱ってくださって。 「いつまでも姉さま姉さまと子どもっぽくて。申し訳ないわ」と婚約者へフォローしてくださった。 初めての、ふたりでの夜会。 年配の方々へ順にご挨拶をして回る。たくさんの方と話すことが良しとされているのだけれど・・・。 本当にお父様は過保護ね。きっと出席者のことまで、叔母さまに頼まれたのだわ。 幼いころから存じ上げているおじさまおばさまばかりいらしているのだもの。 年若い方もいらっしゃるけれど・・・ご令嬢が多い気がする。おそらくは楓の婚約者候補なのでしょうね。 「しばらく休憩なさいますか」 それほど規模の大きな夜会ではなくて。今、会場にいる方には、ご挨拶が済んだと思う頃。 婚約者はするりと人をかわして、軽食が並んだスペースに座らせてくれた。 隣へ座ってくるのだと思った時に・・・。 「撫子姉さま」 楓が声をかけてきた。 こうやって婚約者と並んでいるところを見れば、やはりまだ小さいのね。 楓は満面の笑みで私を見てくれる。 「ご一緒してもいい?少しおなかがすいちゃったよ」 隣には楓が。向かいには婚約者が腰かける。メイドが適当に軽食を取ってくれた。 「・・・まぁ。本当にお腹がすいていたのね。あんなにたくさんお皿に載っていたのに」 見る間に楓のお皿は空っぽ。 「まだまだ、大きくなりたいからね」 とほほ笑む楓は・・・。 幼いとばかり思っていたけれど・・・大人っぽい表情もできるのねぇ。 そうだわ。あの魔法のこと聞きたいのだった。 「・・・あぁ、あれ? そう難しくはないよ。 いつにする?いつでも教えてあげるよ」 楓は快諾してくれた。 「それくらいのこと。手紙をくれたら、すぐに教えに行ったのに」 あらまぁ、楓は知らないのかしら。 「いくらいとこでも。婚約者がいる身で男性に手紙を書いてはいけないのよ。知らなかった?」 楓はくすくすと笑いだす。 「そんなこと、真面目に守ってる人なんかいないよ。古臭いマナーだよ」 ね?と婚約者に向かって訊く楓に。婚約者はあいまいに微笑んで。 「お飲み物をお持ちしますね」 と立ち上がって、去って行った。 手紙のやり取りを私がするのは嫌だと思ったから、お返事を誤魔化してくれたのかしらと少し思って。その背中を見てしまう。 楓は不満そうにそこへ手を振って視線を遮った。 まぁ!私でなかったら大騒ぎされるくらい失礼よ。 「彼は・・・年下の僕は、対抗馬になれないと思っているのかな。 平気でふたりにしたりして」 むすりといじけたように言うから、注意し損ねてしまったわ。 「今、僕が撫子姉さまを口説いて、うんって言ってもらったらどうする気なんだろう」 ほかの男の人だったら確かにふたりにされたら困るわ。楓は心配をしてくれているのかしら?返事のしようもなくて微笑んでおく。 「・・・僕には弟がいるし。撫子姉さまのためなら婿に行ってもいいよ」 「まぁ。ふふ。ありがとう。 でも叔父さまに怒られてしまうわ。優秀なあなたを侯爵家から取り上げることはできないわ」 くすくすとそう返事をする私に。楓はまた何かを言いかけたけれど、ちょうど叔母様に呼ばれて。 「ああもう。ちょっと行ってくるよ」と席を外した。 楓も、下のふたりも。いとこ達はみんな、私を本当に慕ってくれる。 ずっと・・・ご友人にごきょうだいが居ることが、すごく羨ましかった。 あの3人が居てくれなかったら、もっと寂しかったと思うわ。 私が嫡女と決まったあの頃、我が家は悲しみに包まれていた。 産まれるはずだった弟か妹。もう二度と子は望めないといわれたお母様。 あの頃にすべてを理解していたわけではないけれど。 きょうだいが欲しいなんて、お父様にやお母様に言ってはいけないことくらいは気づいていた・・・。 「おや、おひとりですか?」 振り向くと。そこには、水仙様。 返事をする前に目の前に腰かけられる。 ・・・向かい側とはいえ、失礼だわ。 メイドへ目配せした水仙様はシャンパンを2杯。私へわざわざ手づから渡してくる。仕方なく受け取るけれど、お酒は飲めないわ。 「あんな男でいいんですか?」 いきなりなんのことかしら。 「なにが、ですか」 尋ねる私を優し気な瞳で見て。 「結婚相手ですよ。 彼は。ほんの1,2年前まで子爵家の人間だったのですよね。 撫子嬢に釣り合うような男だとは思えません」そう首を横に振る。 釣り合う? 釣り合うって・・・何なんだろう。
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