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現在)SIDE 大地
優香ちゃんに言われた通りのバスに乗り込むと。
言われた通り。
前から3番目に。彼女、が座っていた。
今日から僕たちは付き合っているふりをする。
「これで、なんの関係もない男だったってなったら。大地は言いたい放題言われるわ。揶揄われただとか、賭けの対象になったんだとか。
美人の理子に釣り合わない大地ばかりが、色々言われる。目に見えてる!
だけど、ふたりが付き合ってるとなったら話は別よ。
だからしばらく、振りをしてもらうわ。
やらかしたのは、理子だもの。いいわよね?」
優香ちゃんは彼女を説得しちゃったけど。
・・・本当にいいのかな。
優香ちゃんが言ったこれは、彼女に迷惑をかける作戦。
・・・なのになんでだか。これでいいんだという気もしていて。
最近夢見が悪いせいなのかなぁ。
「おはよう」
緊張しながらも笑ってくれる顔に見惚れてしまう。
モデルにスカウトされたとか、他校のイケメンから交際申し込まれたとか。
とても有名な綺麗なひと。
「おはようございます」
「・・・き、今日は寒いね」
声が震えてる?
「いや、暑いくらいかと」寒いとは思わないけどな。風邪ひかれたのかな?
「そ、そうね。暑いね」
彼女はすぐに肯定してくる。
しまった。ただの話の接ぎ穂じゃないか。つい正直に答えてた。
何を話すでもなく。それでも隣に座って・・・。
右腕が、当たってる。
座った時に触れたから、わざわざ離すのも失礼な気がして。
どんどん乗ってくる同じ制服。
僕ひとりだったら、先週のあれは何だ?ときっと聞かれたはずなのに。
みんな、並んで座ってる僕たちをこそこそと見てるだけ。
やっぱり優香ちゃんはすごいなぁ。言われたとおりだったなぁと思ってしまう。
なるべく知らん顔。
・・・ええと、そう。彼女のほうを見てろって・・・。
さらりとしたまっすぐな髪は。バスがカーブを通るたびにこちらへ流れてくる。
いい香りがする。
あ、いけない。と思うけど。息を止めるわけにもいかない。
こんなに近くに座ったことが・・・。
(あったっけ。
あれは恋人たち御用達の劇場だ。
置かれている大きなソファを。彼女は不思議そうに見ていた。
知らないのか。そう思った。
他の椅子はわざと置いていないんだよ。
初々しいふたりは、距離を近づけることが出来るように。
仲のいいふたりは抱き合って座れるように。
ボックス席に必ずいる侍従も、他の格式のある劇場とは違い、簡単に席を外す。
こんな所へ彼女は、来たこともないんだな・・・)
ん?え。僕今寝てた?
なんかぼんやりして・・・。何か考えていたようなのに。
なんだったっけ?
「どうかした?」
挙動不審だったのか、彼女が声をかけてくれて。
「いえ、ちょっと寝不足みたいです」
「・・・これからの事、心配で眠れなかった?」
優香ちゃんが脅すから。
彼女のほうこそこれからの僕のこと。心配しすぎているみたいだ。
「いえ。寝る寸前に動画がUPされたので、つい見てしまっただけなんです」
心配はしてなかった。うん、なぜか。
だって。彼女がすることに間違いはないから。
学校前のバス停に。
やっと着いた。もう着いた。
立っていた学生、それから後ろの座席の学生、と順にバスを降りていく。
・・・ほとんど最後に、バスを降りる。
どうしてか、振り向いてしまう。真後ろには彼女がいるはず。
ステップを降りようとしていた彼女は、僕と目が合うと。自然にすっと手を差し出した。
その手を下から握る。
(へぇ、そうか。わざわざ御者が、踏み台を出さなくてもいいのか)
支えてバスから彼女を降ろす。
当然のことだ。という考えに・・・自分で戸惑う。
・・・おそらく、彼女もそうなんだろう。今更びっくりした顔をして僕を見てる。
いや、変、だよね。こういうの。
まわりがしん!としてる。
かっと熱がのぼってくるのがわかる。
どちらからでもなく手を離そうとした時に。
「そのままにしなさい」
優香ちゃんの小さな声がした。
は、はい。
どうして僕は(逆らえないんだろう)。
「とうとう隠すことはやめたのね!付き合っていること!」
優香ちゃんの大きい声のほうは、わざとで。
これが・・・僕と理子さんの・・・始まり。
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