ウォルナット伯爵家次男 一位

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僕は「はあ?!」の形のまま口を開けて。 父上のほうは眉を下げた困った顔で。 しばらく見つめあってしまった。 ・・・先に動いたのは父上で。 「あー。お相手は、マグノリア公爵家の撫子様だ」 いや、聞こえなくて聞き返したわけじゃありませんから、そんな暗い声でもう一度言わないでください。 言葉は理解してるんです。受け付けないだけで。 僕は口を閉じ。 ・・・というのは冗談で・・・とか。言い出してくれないかな、父上。 期待を込めて真面目な顔で父上をじっと見る。 「だから。公爵家の・・・」 ダメだった。 「はい、聞こえました。父上」 2回目も聞こえなくて黙ってたわけじゃありません。 「どうして・・・僕、なのでしょう」 公爵家の撫子様といえば、現在我が国にたったひとりの公爵令嬢。 しかも、公爵ご夫妻のひとつぶだね。将来は女公爵になることが決まったお方だ。 遠目でお見かけしたことしかないが美しい方で。清廉で真面目な方だと言う噂も聞いたことがある。 結婚相手に困られるような方では決してない。 「わからん」 父上は頭を抱え、椅子にどさりと座られた。 「今日、しょう爵の手続きで皇城へ出向いたのだが・・・。 公爵閣下自らお声をかけてこられた。 代々堅実で、清廉なわが家が気に入ったと言ってくださった」 父上の目線を追って机の上の書類を見る。 おそらく公爵閣下より渡されたそれは。撫子様の釣り書きだけではなく、王家へ提出する婚約申請の書類も含まれて・・・? 「・・・これ、閣下の署名がすでに入ってませんか?」 呆れた声が出てしまった。 父上はごん、と音がするほど机に頭を衝かれた。 「どうやら・・・。 我が家のしょう爵の話も、公爵閣下が裏で動かれていた可能性がある」 子爵家から、公爵家へ婿入りはできない。 婚姻の爵位の差はふたつまで。 伯爵家であればぎりぎり公爵家と縁組ができるのだ。 「つまり・・・最初から、我が家から婿をと考えていらした?」 父上はくぐもった声で訂正された。 「いや、閣下は名指しでお前を、と言われた」 なぜ?? 「ぼ、僕には特筆すべき利点はなく!」 剣の腕だってふたつ年上の兄上には及ばないし。他国語の習得などではひとつ年下の弟に及ばない。 「だ、誰かとお間違えではないのでしょうか?!」 焦って声が大きくなる僕に。応えるように父の声も大きくなる。 「俺だってそう言った!何とか断ろうともしてみた!」 ・・・それはそうだ。格上も格上。 公爵家からの結婚の打診など。恐怖でしかない。 がばっと起き上がった父上は泣きそうな顔で。 「閣下はすべて論破されたんだ・・・」 まぁ、公爵閣下のお言葉に我が父上が勝てるとも思わないが・・・。 貴族らし(腹黒)さはぜーんぶ叔父上に譲ってしまわれた父上だもの。 あぁぁぁ。と呻いた父上は。 「あとは、顔合わせで双方が気に入れば決定だ・・・」 またも頭を抱えられたけれど。 それを聞いて、僕はほうっと息をついた。 「なんだ、良かった。それなら問題はないでしょう」 落ち着いた僕の声に父上は不思議そうに手を下ろされる。 「公爵令嬢のお噂は聞いてます。非の打ちどころのないご令嬢なのだとか。 それほどの方が、僕を気に入るはずがありません。 すぐにあちらから、お断りなさるでしょう」 ご令嬢を溺愛なさっている閣下のお話も有名だ。 公爵閣下のすすめたい婚約者は他にいて。 僕と比べてそちらがいいと思わせるための顔合わせなのだろう。 そう説明すると父上は納得いかない顔で僕を見る。 「お前は自慢の息子だ」 怒ったように言わなくても。 「わかってますよ。僕にだって自慢の父上です。 しかし、この話は断ってもらったほうがいいではありませんか」 僕が笑うと。 「とにかく・・・5日後。公爵家から迎えが来る。 既成のものでもいいので、それなりの服を用意するように」 父上はそう言って書類をまとめ・・・かけて。 「あぁぁ!もう!」と叫んでまた机へ放りだされた。
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