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公爵家嫡女 撫子〈15歳と10日〉
初代皇帝が即位され、国が興ってから今年で476年。
建国500年に開催予定の記念式典は、もうすでに準備が始まっていると聞く。
大陸随一の大国。隣接するのは、小さな国ばかり。
歴史を重ね、対抗できる勢力皆無の今。我が国は非常に安定していた。
・
「・・・ということで。ふた月後に予定されていたお前の挙式は、1年後に延期されることとなった」
居間には、お父様とお母様。先代から仕えてくれているという執事だけ。
公爵として取り繕う必要はない状況のなか。
お父様はなんとも説明できない表情で。はぁぁぁ、とため息をつかれた。
先日の議会で。
婚姻は、特別な事情がない限り16歳以上でないと認められない。
と決まった。
幼い年齢で妊娠すると、生まれてくる子の死亡率も母体の危険度も高くなってしまうから。国の始まり、混乱期の頃のような年若い結婚は、最近では推奨されてない。でもそれでも。
「わざわざ法で定めることでしたか?」
そう、お父様に聞いてしまう。
各家の状況を鑑みて常識的な範囲で、といった風に捉えられていた婚姻年齢が。法で定まるのは、我が国初めてのことだった。
「私もそう思う」お父様はもう一度ため息をつかれる「正直、面倒なことが起こりそうな気がする」
お母様は、くすくすと宥めるようにお父様の手を握られた。
「心配しすぎですわ」
すぐにその手を嬉しそうに反対の手で掬い取ったお父様は、お母様の腰をぎゅっと引き寄せられる。
いつまでも仲のいい両親だこと。
向かいのソファでいちゃいちゃし始める両親から顔を逸らして。私は遠い目で窓のほうを見る。
居間からは美しく整えられた花壇が見えるように設計されている。
そういえば、婚約者との初顔合わせの時。歩いたのはこの辺だったわね。
「慰めてくれるのかい?・・・そうだね。ふたりきりの時に。・・・すぐに仕事など終わらせるとも」
甘い。甘すぎるお父様の声・・・聞きたくないんですけど!?
いいかげん、娘の前で恥ずかしいと思ってもらいたいわ。
私だって、もう意味がわからない子どもでもないんだから。
あぁ「わたくしだけ仲間外れにしてずるいです!」と両親の間に飛び込んでいられたころが懐かしいわ。
・・・つい半年前までのことなんだけど・・・。
だ、だって仕方ないじゃない!
婚約者が決まったのがたった1年前だし!
淑女教育でね、閨の作法を習ったのがやっと半年前なんだもの!
こほん、と執事が。わざとらしく咳払いをしてくれてほっとする。
すっと姿勢を正したお父様はそれでも。お母様の腰から手を離さなかった。まったくもう。
にこにこしているお母様もお母様だわ!
・・・ちらっと私をご覧になるから。このいちゃいちゃはわざとよね。
有言実行されているのだわ。
”結婚を控えたあなたに、夫婦とはこうあるべきだと教えてあげるわ”と仰っていたもの。はぁぁ。私の両親、いろいろ間違ってる!
・・・まぁ、それでも。幸せそうな両親の顔は。やっぱり嬉しくて。
たったひとりの子どもとしては、なるべく早く次期公爵として立派になって。
なるべく早く仕事から解放して差し上げたいと思っている。
我が公爵家の伝統では、早い方は14歳で婚姻されていたから。
すぐにデビュタントを行って、さっさと結婚して公爵家を継ごうと思っていたのだけれど。
・・・私はもう15歳になってしまったわ。
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