公爵家嫡女 撫子〈15歳と10日〉

1/2
前へ
/48ページ
次へ

公爵家嫡女 撫子〈15歳と10日〉

初代皇帝が即位され、国が興ってから今年で476年。 建国500年に開催予定の記念式典は、もうすでに準備が始まっていると聞く。 大陸随一の大国。隣接するのは、小さな国ばかり。 歴史を重ね、対抗できる勢力皆無の今。我が国は非常に安定していた。   ・ 「・・・ということで。ふた月後に予定されていたお前の挙式は、1年後に延期されることとなった」 居間には、お父様とお母様。先代から仕えてくれているという執事だけ。 公爵として取り繕う必要はない状況のなか。 お父様はなんとも説明できない表情で。はぁぁぁ、とため息をつかれた。 先日の議会で。 婚姻は、特別な事情がない限り16歳以上でないと認められない。 と決まった。 幼い年齢で妊娠すると、生まれてくる子の死亡率も母体の危険度も高くなってしまうから。国の始まり、混乱期の頃のような年若い結婚は、最近では推奨されてない。でもそれでも。 「わざわざ法で定めることでしたか?」 そう、お父様に聞いてしまう。 各家の状況を鑑みて常識的な範囲で、といった風に捉えられていた婚姻年齢が。法で定まるのは、我が国初めてのことだった。 「私もそう思う」お父様はもう一度ため息をつかれる「正直、面倒なことが起こりそうな気がする」 お母様は、くすくすと宥めるようにお父様の手を握られた。 「心配しすぎですわ」 すぐにその手を嬉しそうに反対の手で掬い取ったお父様は、お母様の腰をぎゅっと引き寄せられる。 いつまでも仲のいい両親だこと。 向かいのソファでいちゃいちゃし始める両親から顔を逸らして。私は遠い目で窓のほうを見る。 居間からは美しく整えられた花壇が見えるように設計されている。 そういえば、婚約者との初顔合わせの時。歩いたのはこの辺だったわね。 「慰めてくれるのかい?・・・そうだね。ふたりきりの時に。・・・すぐに仕事など終わらせるとも」 甘い。甘すぎるお父様の声・・・聞きたくないんですけど!? いいかげん、娘の前で恥ずかしいと思ってもらいたいわ。 私だって、もう意味がわからない子どもでもないんだから。 あぁ「わたくしだけ仲間外れにしてずるいです!」と両親の間に飛び込んでいられたころが懐かしいわ。 ・・・つい半年前までのことなんだけど・・・。 だ、だって仕方ないじゃない! 婚約者が決まったのがたった1年前だし! 淑女教育でね、閨の作法を習ったのがやっと半年前なんだもの! こほん、と執事が。わざとらしく咳払いをしてくれてほっとする。 すっと姿勢を正したお父様はそれでも。お母様の腰から手を離さなかった。まったくもう。 にこにこしているお母様もお母様だわ! ・・・ちらっと私をご覧になるから。このいちゃいちゃはわざとよね。 有言実行されているのだわ。 ”結婚を控えたあなたに、夫婦とはこうあるべきだと教えてあげるわ”と仰っていたもの。はぁぁ。私の両親、いろいろ間違ってる! ・・・まぁ、それでも。幸せそうな両親の顔は。やっぱり嬉しくて。 たったひとりの子どもとしては、なるべく早く次期公爵として立派になって。 なるべく早く仕事から解放して差し上げたいと思っている。 我が公爵家の伝統では、早い方は14歳で婚姻されていたから。 すぐにデビュタントを行って、さっさと結婚して公爵家を継ごうと思っていたのだけれど。 ・・・私はもう15歳になってしまったわ。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加