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大門をくぐると馬車は。
先ほどまでと違ってゆっくりゆっくりと進み始める。
今夜の会場である皇宮へ向かって、広い皇城の中を進んでいく。
明るいなかで見ても、ここはすべてが管理されたとっても美しい場所だけれど。
夜はまた、雰囲気が違うんだわ。
設置してある魔道具には・・・あら?明かりが点いていない?
夜会仕様なのかしら?代わりに、あちこちに魔法でいろんな色の明かりが灯されていて。
・・・なんだか幻想的。
それに・・・細い線のような明るい光が何本も、時折塔へ登っていく。
美しい塔に光はきらきらと反射して・・・すごく綺麗。
毎回、魔法力を感じるから、魔道具では無さそうだわ。
魔法部の方たちの魔法?馬車がやってくる間、ずっと続けられるのかしら。
こんなことを考え付くなんて凄いわ。我が家でもやってみたいわ。
魔法部に勤め始めたいとこも、今日は裏方へまわっているはずよね。この魔法のやり方を聞いてもいいものかしら。
お父様は、皇宮が近づいてくると、まず私へ。
「正面の車どまりで、私たちだけ降りるからね。
今夜デビューを迎える者は、控室の近い東の車どまりで降りるようにと連絡があった。
御者には話してあるよ・・・後は頼む」
最後には婚約者へ話しかけられた。
・・・お父様とお母様は、ずっと一緒にいると言ってくださったのに。
つい横のお母様を見てしまうと。
「まぁ。そんな不安そうな表情は、外ではしてはいけないわよ」
と叱られてしまった。
「大丈夫。先に会場へ入って待っているだけよ。
会場ではずっと、あなたのそばにいるわ」
ふふふ、と笑われたお母様は。そっと私の手をたたいてから、お父様と馬車を降りて行かれた。
車どまりにいた皇宮侍従が、馬車の扉を閉めてくれる。
”名を呼ばれて会場へ入場。玉座の前まで進み、皇族へ最上礼を”
今夜の流れは、何度も練習したけれど。
・・・やっぱり不安だわ。
ふたりきりの車内。馬車はまた、ゆっくり進み始めた。
魔法力を感じて、ちらと窓を見上げる。
また明かりが塔へ登っていくわ。
「綺麗ですね」ぽつりと婚約者が呟いた。
まぁ、珍しい。彼も夜会に少しは浮かれているのかしら。
「ええ、本当に。魔法部の方々のご厚意ですわね」
私は行儀悪く、外を見たままで同意した。
・
私より、身分が上の方はいらっしゃらなくて。
入場は最後だった。
「緊張していらっしゃいますか」
前の方が扉の奥へと進まれると。婚約者は小さくそう聞いてくる。
「いいえ」
顔に出ていない自信はあるけれど。エスコートで繋いでいる手が震えているから。悔しいけど、彼には露見しているわね。
「僕は、とても緊張しています。だから」
彼は私の手を肘へ誘導した。
「こちらを握っていていただけませんか」
肘に掴まるエスコート。婚約者だから、許されるわ。
私はただ頷いた。
・
私は・・・まっすぐに歩けていたのかしら。
すっかり緊張していて。
最後に全員に話しかけてくださった陛下のお言葉も、ちっとも覚えていないわ。
腕に掴まらせてくださったのは、私を心配してだったのね。しっかりと支えていてくれたからすごく助かったわ。
「撫子様の礼はとても美しかった。おかげで僕まで綺麗な所作でいられた気がします」
どうせ、緊張してることは知っていたくせに。
・・・こういう時に限って褒めてくれなくてもいいのに。
音楽が始まる。今夜のファーストダンスは、デビュタントを迎えた者たちに許される。
その場で一番高位の方が、ひと組踊られるのではなく。何人もの白いドレスが一気に踊るということよ。壮観だわ!
もちろん音楽はそのまま続けて演奏されるから。
1曲だけ踊ってさっと引き上げられる方。すぐにふたり目の男性に誘われている方。
横目でその様子を見ながら。
婚約者と私は、続けて2曲踊った。
3曲目はお父様と。そう言われていたから・・・。
お父様へ向かって、婚約者のエスコートで歩き始めたのに。
「私とも踊ってもらえないかな」
第1皇子殿下から、声をかけられた。
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