撫子 〈15歳と2か月〉

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大門をくぐると馬車は。 先ほどまでと違ってゆっくりゆっくりと進み始める。 今夜の会場である皇宮へ向かって、広い皇城の中を進んでいく。 明るいなかで見ても、ここはすべてが管理されたとっても美しい場所だけれど。 夜はまた、雰囲気が違うんだわ。 設置してある魔道具には・・・あら?明かりが点いていない? 夜会仕様なのかしら?代わりに、あちこちに魔法でいろんな色の明かりが灯されていて。 ・・・なんだか幻想的。 それに・・・細い線のような明るい光が何本も、時折塔へ登っていく。 美しい塔に光はきらきらと反射して・・・すごく綺麗。 毎回、魔法力を感じるから、魔道具では無さそうだわ。 魔法部の方たちの魔法?馬車がやってくる間、ずっと続けられるのかしら。 こんなことを考え付くなんて凄いわ。我が家でもやってみたいわ。 魔法部に勤め始めたいとこも、今日は裏方へまわっているはずよね。この魔法のやり方を聞いてもいいものかしら。 お父様は、皇宮が近づいてくると、まず私へ。 「正面の車どまりで、私たちだけ降りるからね。 今夜デビューを迎える者は、控室の近い東の車どまりで降りるようにと連絡があった。 御者には話してあるよ・・・後は頼む」 最後には婚約者へ話しかけられた。 ・・・お父様とお母様は、ずっと一緒にいると言ってくださったのに。 つい横のお母様を見てしまうと。 「まぁ。そんな不安そうな表情は、外ではしてはいけないわよ」 と叱られてしまった。 「大丈夫。先に会場へ入って待っているだけよ。 会場ではずっと、あなたのそばにいるわ」 ふふふ、と笑われたお母様は。そっと私の手をたたいてから、お父様と馬車を降りて行かれた。 車どまりにいた皇宮侍従が、馬車の扉を閉めてくれる。 ”名を呼ばれて会場へ入場。玉座の前まで進み、皇族へ最上礼を” 今夜の流れは、何度も練習したけれど。 ・・・やっぱり不安だわ。 ふたりきりの車内。馬車はまた、ゆっくり進み始めた。 魔法力を感じて、ちらと窓を見上げる。 また明かりが塔へ登っていくわ。 「綺麗ですね」ぽつりと婚約者が呟いた。 まぁ、珍しい。彼も夜会に少しは浮かれているのかしら。 「ええ、本当に。魔法部の方々のご厚意ですわね」 私は行儀悪く、外を見たままで同意した。    ・ 私より、身分が上の方はいらっしゃらなくて。 入場は最後だった。 「緊張していらっしゃいますか」 前の方が扉の奥へと進まれると。婚約者は小さくそう聞いてくる。 「いいえ」 顔に出ていない自信はあるけれど。エスコートで繋いでいる手が震えているから。悔しいけど、彼には露見しているわね。 「僕は、とても緊張しています。だから」 彼は私の手を肘へ誘導した。 「こちらを握っていていただけませんか」 肘に掴まるエスコート。婚約者だから、許されるわ。 私はただ頷いた。   ・ 私は・・・まっすぐに歩けていたのかしら。 すっかり緊張していて。 最後に全員に話しかけてくださった陛下のお言葉も、ちっとも覚えていないわ。 腕に掴まらせてくださったのは、私を心配してだったのね。しっかりと支えていてくれたからすごく助かったわ。 「撫子様の礼はとても美しかった。おかげで僕まで綺麗な所作でいられた気がします」 どうせ、緊張してることは知っていたくせに。 ・・・こういう時に限って褒めてくれなくてもいいのに。 音楽が始まる。今夜のファーストダンスは、デビュタントを迎えた者たちに許される。 その場で一番高位の方が、ひと組踊られるのではなく。何人もの白いドレスが一気に踊るということよ。壮観だわ! もちろん音楽はそのまま続けて演奏されるから。 1曲だけ踊ってさっと引き上げられる方。すぐにふたり目の男性に誘われている方。 横目でその様子を見ながら。 婚約者と私は、続けて2曲踊った。 3曲目はお父様と。そう言われていたから・・・。 お父様へ向かって、婚約者のエスコートで歩き始めたのに。 「私とも踊ってもらえないかな」 第1皇子殿下から、声をかけられた。
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