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現在)つまり始まり
どん。
という衝撃。
油断していたわ。
まさかこんな大勢がいる場所で。
このわたくしに対して、危害を加えようとする人間がいるなんて!
考えもしていなかったわ!
頭にすごい勢いで”何か”がぶつかってきて。
体はふらりと。
・・・膝から崩れそうになるのを何とか堪える。
当たった瞬間、ちらりと真白な玉が見えた気がする。あれは魔法玉?
水系統の魔法?
他に白いのは・・・まさか光?
光魔法が使える人なんて今の貴族家にいたかしら?
片手で目元を押さえると、ふらふらする肘が固いものに触れる。
あぁ、そうだ。わたしは壁のそばに居たわ。
寄りかかるように壁に手をつけば、なんだかぽこぽことした変な感触。そのくせ装飾も無い?変な壁。
ざわりとした音の響きから大きな部屋なのだとわかるけど。この広間はいったい何の目的で作られてるんだろう?
さっきから、余計な疑問ばかり浮かぶのは、何とか意識を保とうと必死なのかしら?
身体強化の魔法をかけようとしてるのになぜか発動しなくって。
くらりくらりとする感覚が消えない。このせいで魔力を練り上げられないのかしら?
そんなわたくしに。
慌てて駆け寄り、手を差し出す男性がぼんやりと認識されて。
「ごめん!大丈夫?」
視線をやって驚く。
なに?その恰好。
今日は催しらしいもの。今時平民でも、こんな時にはスーツを着ていてよ?
なんだかとっても変な服。お父様がご旅行にお持ちになる寝巻のような形状ね。だけど、ボタンがひとつもないわ。
それを着た男が、わたくしを支えようともう一歩近付くから怖くて。
「いらないわ」
こちらへ伸びていた手を追い払うような仕草を。わざとする。
だって。
わたくしは公爵令嬢なのよ!
婚約者がいる身で。このように多くの人の声がする場所で。
他の男性に体に触れられるなど!
たとえどのような状況でも!あってはならない!!
触らないで!と大声で叫んでやりたいのに・・・また頭の奥がくらりとする。
どうしてか、はっきりとしてくれない。
このままではいけないわ・・・お父様かお母様は近くにいらっしゃらないの?
周りを見るけど。ぼんやりとした視界には、変な服を着た人ばかりがうつる。
見たことのない人ばかり?
頭を動かしたせいか、くらくらと眠たいような感覚がまた強くなって。
・・・もうだめだわ。
もしもこのまま倒れて。知らない男性に抱えあげられてしまったら。
社交界で失脚してしまう!
今までの努力が、こんなことで消えるなんて・・・考えもしなかった。
次期女公爵のわたくしは。美しく。誇り高く。誰にも弱みを見せないように生きてきたのに。
わたくしを嫉む人間は多いわ・・・貴族はみんな、足の引っ張り合いしかしないのよ・・・。
あぁ、これではなんのために努力をしてきたのか、もう・・・。
・・・あきらめかけたその時。
居たわ!
わたくしの視線の端には彼がいて。
居るくせにどうしてさっさと出てこないの?!だから嫌いなのよ!
・・・本当に嫌な人。
わたくしはそれでも手を伸ばす。
婚約者に向けて・・・。
・ ・ ・
痛いわ。
ふっと目が覚める。
背中が痛い。なんて固いの。
まさかわたくし、床にそのままにされてるの?
・・・いえ、一応ベッドのようだわ。
視線だけをくるりと見回せば、少し高いところに寝ているのはわかった。
でも狭いわ。なんて小さいベッドなの?
今度は首も動かして。周りをゆっくり確認する。
低い低い天井には、直接にカーテンを付けてある?小さなベッドをぐるりと囲んでる。
・・・貧相な場所。
平民の救護室?なのかしら。
起き上がろうと身動きしただけで、ベッドは軋んで嫌な音を立てる。
「あら、起きた?」
離れた場所から、女性の声。
やはり軋む椅子の音。パタパタとこちらへ近づく気配。
おそらくは声の女性が、断りもなく、しゃっとカーテンを開けた。
・・・失礼だわ、と言いかけて。
止める。
心配そうにのぞき込んできた女性は。変わった作りだけど、白衣を着ていたから。
医者だというのなら、これも仕方がない態度だわ・・・。
「ここは・・・」
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