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葵と恭子、華川城を訪れる。
目の前の城を見上げる。私達の通う大学から電車で十五分、バスで二十分の場所。周りは住宅地で駅まで戻らないと何も無い。傍らの恭子に話し掛ける。
「しかしよくもまぁこんな小さなお城のイベントなんざ見付けたな」
私の指摘に親友は親指を立てた。半分は皮肉なのだが伝わっていないらしい。肩を竦める。
「何よ葵、そのリアクションは」
「別にぃ。ただ、夏休みに遊ぶならもっと楽しい催し物があったんじゃねぇかなって」
「甘いわね。今夜のナイト・ツアーは夏休みだからこそ開催される企画なの」
そう言って恭子は地域情報紙を見せた。大学からも、私達が一人暮らしをしている街からも離れた地域の物。何でチェックしているんだ。
『夏休み限定! 夜の華川城を探検しよう! 昼間は見られない顔を見せるかも? 最上階まで辿り着いたら願いが叶うかも知れない? 第一回ナイト・ツアー 七月三十一日(月)開催』
と書かれている。
「要は夜の城を上ろうって話だよな」
「ところが調べてみたら面白い事実が判明したの。華川城には伝説があってね、妖魔の脅しに屈さず天守閣の最上階まで辿り着いた者は神様が願いを叶えてくれる、ってものなの。もしかしたらこれを下敷きにツアーを組んだんじゃないかしら。肝試し代わりと言っては罰当たりだけど、面白いと思わない?」
「よく調べたな」
親友は再び親指を立てた。やれやれ、肝試しはともかく夜の城ねぇ。恭子が腕時計を確認した。集合時間、と走り出す。慌てて後を追った。
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