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ようやく夏休みが取れて、俺は自宅に引きこもっていた。 俺の名は田山(たやま)朗太(ろうた)。 もうすぐ三十路(みそじ)になる会社員だ。 特に趣味らしい趣味もなく、毎日をどうやって楽に生きるかを考えている。 世間では新型ウイルスの感染が収まり、どいつもこいつも浮かれて旅行だの祭りだのと出かけてる。 このクソ暑い中で、ご苦労様といったところだ。 せいぜい人込みの中で汗だくなって、楽しかったと思い込んでいればいい。 俺は涼しい部屋で酒を飲みながら、ゲーム、映画、アニメ、ドラマでも観て悠々(ゆうゆう)自適(じてき)(ひま)をつぶさせてもらう。 その……はずだった――。 「初めまして。どうやらここらじゃあなたの家が一番冷えているみたいね。とういうわけで、今日からお世話になるからよろしく」 チャイムが鳴ったので玄関を開けてみたら、そこにはペンギンのヒナと、白い小熊がいた。 しかも、ペンギンのヒナは人の言葉を話していた。 見る限り白い小熊のほうは(しゃべ)れないみたいだが、これは一体何が起きているのか? それとも七連休の初日だからって、朝からストロング系チューハイを四本開けたのが不味かったのか? 「ハハハ……ヤバいな、こりゃ……。ちょっと飲み過ぎたか」 「それはいけないわね。飲み過ぎた時はお水を飲んだ方がいいわ」 ペンギンのヒナと白い小熊が、俺の股をすり抜けて部屋へと入っていく。 頭を抱えていた俺は、慌てて勝手に入った二匹に向かって声を張り上げた。 「おいおい、なに勝手に人んち入ってんだよ!? つーかなんなんだよ、おまえらは!?」 ペンギンのヒナと白い小熊は、怒鳴った俺のことを見上げると、「はぁ」と大きくため息をついた。 そして、ペンギンのほうがコホンと咳払いすると、俺に向かってくちばしを開く。 「そういえば名前をいうのを忘れてたわね。アタシは皇帝ペンギンのギン子。ペンギンのギンと女の子の子から取ってギン子よ。大人びてるけど、これでもヒナよ。この子は――」 ギン子と名乗った皇帝ペンギンのヒナが、白い小熊の背中をポンッと叩く。 「メスのホッキョクグマのポーラよ。ちなみにポーラはホッキョクグマの英語読み、ポーラーベアから取って付けたの。一応、北極は英語圏みたいだしね」 「んなこたぁ訊いてねぇんだよ! こっちはおまえらが何もんで、なんでウチに来たのかを訊きてぇんだ!」 俺が怒鳴り返すと、ギン子とポーラは互いに顔を合わせて不可解そうにしていた。 ポーラが心配そうにギン子に耳打ちをしているが、そんなことしなくても俺にクマ語はわからない。 「それはもう話したじゃない。アタシは皇帝ペンギンのヒナで、この子はホッキョクグマだって。この家に来た理由だってもう最初に言ったんだけど、しょうがないからまた言うわ」 ギン子は、コホンとまた咳払いをしてから言う。 「あなたの家を選んだのは、この部屋がここらで一番冷えているからよ」 どうやらギン子が説明するに――。 この周辺の住宅の多くが留守であり、冷えている――つまりは冷房エアコンが効いているのは俺の部屋だけなのだそうだ。 なんでもこの皇帝ペンギンのヒナとホッキョクグマは、サーモグラフィーのように冷気を感じ取れるらしく、それをたどって来たら俺のウチだったということらしい。 ちなみにウチに来る前にコンビニやレストランなどの店に入ったようだが、ペット持ち込み禁止というか、動物の入店は断られたようだ。 俺としては迷惑な話だし、意味はわからないままだったが。 まあ、ウチに来た理由は理解できた。 だが、まだ肝心(かんじん)なことが説明されていない。 「話はわかった……。それでギン子。なんでおまえは人の言葉が喋れるんだ? つーかペンギンも白熊も北極に住んでる動物だろ? それがなんで日本にいんだよ?」 「それは話せば長くなるわ。とりあえずアタシとポーラにドリンクをちょうだい。氷たっぷりでキンキンに冷えたヤツをお願いね。ここまで炎天下の中を歩いてたから(のど)がカラカラなのよ」 俺は仕方なく、二匹を部屋に通した。 ワンルームの狭い部屋には、ベットにテーブル、ノートパソコンとテレビがあり、ギン子とポーラは迷うことなく、ベットへと腰を下ろしていた。 見ず知らずの動物が自分の寝床に触れたのに苛立ったが、今はともかくこいつらの事情を聞くのが先だ。 それから俺は冷蔵庫を開けて、コップに氷とコーラを注いで二匹に出してやる。 「ちょっとこれ、ゼロじゃないわよね?」 俺がそうだと答えると、ギン子とポーラは顔をしかめた。 ペンギンとクマのくせに、まるで人間のように表情が豊かだ。 「アタシたちは好き嫌いはないほうなんだけど。人工甘味料だけはダメなのよ。だから他のモノに変えてちょうだい」 「そ、それは、おまえらがペンギンとホッキョクグマだからか……?」 「違うわよ。好みの問題」 厚かましいと呆れながらも、俺は別のドリンク――アイスコーヒーを出してやった。 そしたら甘くないだのミルクを入れろだの騒ぎ出した。 なにが好き嫌いはないだよ! 物凄く好みにうるさいじゃねぇか! 怒りを抑えながら、俺は二匹の要求に(したが)い、最終的にカフェオレまで甘くなった冷たいコーヒーを作ってやった。 「じゃあ、話してもらおうか。なんでおまえらが日本にいるのかを」
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