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マルス2の打ち上げ
『マルス2、Go For Launch!!』
その日、私はマルス2の打ち上げをリサの病室にセットされた大型モニターで見ていた。ベッドの上のリサはパソコンのキーボードを一心不乱に叩いている。
「リサ、打ち上げよ」
彼女が顔を上げて私に視線を向ける。
「うん? ええ、そうね」
彼女は首を振って打ち上げの中継を見つめた。
発射台のマルス2にカメラがズームアップしていく。画面の下方に秒読みが見える。
『九、八、七、六、五、メインエンジン点火』
発射台の下方から水煙が上がり始めるのが見えた。
『三、二、一、離床!!』
その瞬間モニターに映ったマルス2が発射台を離れ、ゆっくりと上昇始めた。その機体が太陽の光を反射して輝きながら真っ青な空に昇っていく。
「やった、打ち上げ成功ね!」
リサが笑顔で振り返った。
「ええ、火星へ向かうわ。あとは貴女の制御則次第よ」
「分かってる。マルス2が火星軌道に到達する前に、改善制御則を完成させてみせるわ。あと十カ月……。丁度、私の余命と同じくらいの期間ね……」
そう言って再びキーボードを叩き始めた彼女を、私は複雑な気持ちで見つめていた。
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