36人が本棚に入れています
本棚に追加
私は管制センターからリサの病院に向かった。彼女の病室を訪れてドアをノックする。
「……ど……どう…ぞ」
部屋からか細い声が聴こえた。
ドアを開けると、すっかり痩せてしまったリサがベッドの上でキーボードを叩いているのが見える。肩で大きく息をしながらのその作業は本当に辛そうだ。
「リサ、辛いんだったら、もう良いわよ。残りはスペースYのプログラマーが引き継ぐから……」
彼女のベッドに歩み寄るとそう声を掛けた。でも彼女は首をゆっくり左右に振ったまま視線をパソコンから離さない。
「き……昨日……最後の……シミュレーターチェックで……見つかったバグを修正しているの。今……最終チェック……しているから待って……」
「えっ? 出来たの? マルス2の自立降下制御則が?」
彼女が頷く。
「う……うん、今、スペースYのクラウドサーバー経由で……マルス2……の主記憶装置3にアップロードしているわ……。か……完了よ」
彼女はそれだけ言うと倒れ込む様にベッドに身体を横たえた。肩で息をしていた彼女は、自分で酸素マスクを顔に付けると大きく深呼吸をしている。
「ありがとう、リサ」
私はポケットから携帯を取り出すとスペースYの管制センターを呼び出した。
「エリー、自立制御則が完成したわ。予定通りに一週間後、マルス2の南極地下空洞への降下ミッションを開始するわ!」
最初のコメントを投稿しよう!