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WINーWINの取引
「この部屋ね」
私はサンノゼ大学病院の入院棟の個室を訪ねていた。ノックをすると中から声が聴こえる。
「はい、どうぞ」
ドアを開けるとベッドの上でリサがパソコンを操作している。彼女は私に気付くと笑顔を向けてくれた。
「マリー! どうしてここに?」
「ベッツ教授に聞いたの。貴女が入院しているって」
「うん。本格的に放射線治療を受ける為よ」
「えっ? 放射線治療って……まさか」
「そうよ。私は膠芽腫、悪性の脳腫瘍なの。既にステージ4で全身に転移が始まっているわ。余命は半年から一年と言われている」
彼女は笑顔を見せながらそう説明してくれた。
「それで治療に専念を。それじゃ私のプロジェクトの支援は難しいわよね?」
「プロジェクトって?」
「火星の南極の地下空洞に降下する探査機『マルス2』のプロジェクトよ」
「えっ? 火星探査の?」
彼女の藍色の瞳が大きく開いた。
「ええ。先週、マルス1が着陸に失敗したの。次のマルス2を地下空洞へ着陸させる為には自立制御則の革新が必要なのね。その制御則を貴女にお願いしたかったんだけど……」
彼女が口角を大きく上げた。
「大丈夫よ。私、病院からは出れないけど、ベッドの上でプログラムを書くことは出来るわ」
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