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「座って、今コーヒー淹れるわね。ブラックで良かったわよね」
「あ、私が」
「いいの、座ってて」
彼女の緊張がヒシヒシと伝わってくる。
部長はああ言ったけれど、私の感情に素直になるわけにはいかない。私のせいで彼女が悩んでいるのだとしたら、それで仕事でミスをしたのなら。いやミスするのは構わない、カバーはいくらだって出来る。けれどそれで信用や自信を失ったなら。
前途有望な若者の将来を守るのが上司としての役目だろう。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
私がカップに口をつけても彼女はじっと俯いていて。
「すみませんでした」
いきなり謝ってきた。
「えっと?」
表情からは思い詰めている感じが窺えたため、余計な言葉は挟まず先を促した。
「私のミスでご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「報告は受けているけど、その事で呼んだんじゃないわよ。でもまぁ気にしてるみたいだから、そこから始めましょうか。ミスの原因は何だと思いますか?」
「私の……不注意です。失念というか、すっかり忘れていて」
「では、どうすれば防げたかしら?」
「それは、もっと集中して仕事していれば……少しぼんやりしてました。申し訳ありません」
「それはでも、無理よね? 出社している間ずっと集中して仕事をするなんて、身も心も疲れちゃうわよ」
「でも」
「ヒューマンエラーは致し方ないと思うの、人間なんだもの誰だって間違えることはある、それをカバーするためにチームはあるの。自分一人で抱えないで、誰かに伝えるなりメモを残すなり、山本さんなら出来るわよね?」
彼女のコミュニケーション能力ならば容易いことだと思う。
「はい、いつも助けてもらってます」
「ね、顔あげて?」
言葉とは裏腹に、ずっと俯いている彼女。責めているわけではない事を、どうすれば伝えられるのか。
「ミスや間違いは、どんどんしてもいいと思うの」
「え?」
あ、ようやく目を見てくれた。
「間違いがわかれば正解もわかるでしょ? ミスをすればミスしないようにする方法もわかる筈なの。ミスを怖がらないで」
「でも、カバー出来ないような致命的なミスしたらって」
やっぱり不安ですと、また俯いてしまった。
「覚えておいて、その時は私が……私たち管理職が責任を取るから」
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