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好きになる理由
私は緊張していた。
あれだけ話をしたかった課長と、仕事のヒアリングとはいえ二人で話せる機会なのに。あの事が、ドアを開ける手を躊躇させていた。
「そんな気にすんな、俺なんかしょっちゅうミスってるぜ」
相澤にはそんなふうに励まされても私の気持ちは晴れない。私の不注意で迷惑をかけた人がいるのだから。
「原因は何だと思いますか?」
そう、それが私の一番の問題。最近はずっと課長の事が気になっていて仕事に集中出来ていなかった、その結果がこれだ。全部私のせい、課長に合わせる顔がない。
「ね、顔あげて?」
恐る恐る課長を見ればとても優しい顔をしていて、ミスを怖がらないでと言う。一人で抱え込まないで、そのためのチームでしょと。
説得力のある言葉と包容力に、涙が出そうになって必死に我慢した。同時に私の心を満たす思いーーあぁ、やっぱり好き。
「私に何か言いたいことがあるんじゃない?」
あるにはあるが、この面談の場で言ってもいいものか?
「何でもいいわよ」
その言葉に促され思い切って口にする、ずっと言いたかった一言を。
一緒に食事でもどうですか?
場違いなその言葉に、課長は一瞬ポカンとする。そんな子供のような表情も可愛いと思ってしまいニヤケそうになるが、なんとか我慢した。ダメダメ、ここは会社の会議室。
忙しいからと断られるかもしれない、それでも諦めずに何度も誘うつもり、そんな簡単に上手くいくとは思っていない。
意外にもあっさりとオッケーが出た、この前のお礼に何でも奢るわよと。
「そうね、来週は出張もあって時間取れなさそうだから、今週中……明日はどう? 急すぎるかしら?」
「いえ、全然大丈夫です」
課長の忙しさゆえに、トントン拍子に話が進んだ。
入る時は気が重かった会議室のドアを開け、いつもの部署に戻った。帰りは心なしか浮かれていたような気もする。
あ、もしかしてーー
私が落ち込んでいたから?
食事にオッケーしてくれたのも、日程を早めにしてくれたのも、私を元気づけるためなのかもしれないなぁ。
そういうところだよ、飯田課長!
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