はじまり

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 私は女性を好きになる。  高校の時に一度だけ、女の先輩と付き合ったことがある。  だがそれ以降は、好きになっても成就したことはない。  仲良くはなっても、告白する前に相手に彼氏が出来たり好きな人が出来たりと、その恋を友人として応援したり見守る立場となるのだ。辛い。  もしもこの世に女性しかいなかったのなら、堂々と好きな子を口説けるのに。  ここ数年は、いつもそんな事を考えていた。  さりげなく右隣に座っている飯田課長を盗み見る。  年齢は私よりも随分上だけど、入社当時から憧れていた。容姿はもちろん、仕事に対する姿勢や部下への指導力等、私以外にもーー特に男性社員ーーの憧れの的でもある。  この人を好きになっても、きっと。  タクシーを降りて、当然のように課長を支えながらマンションへ入る。6階建てのセキュリティ万全のマンションだ。エレベーターで5階へ行き部屋の前まで歩く。  さすがにこの先は無理だよね、課長のプライベートだもん。 「課長、あとは歩けますか?」 「……無理かも、良かったらベッドまで連れてってもらえる?」  身体中の血液が沸騰しそうになるが、努力して冷静を保つ。課長は私が同性だから安心して頼んでいるんだ、私が邪な気持ちを持ってるなんて知られてはいけない。 「はい」 「ジャケット、掛けておきますね」 「お水、飲まれますか?」 「あとは、着替え? は、出来ますよね」  お世話する事で気持ちを紛らわし、変な気を起こさないよう努めた。  許可を取りながら、クローゼットからハンガーを取り出したり、冷蔵庫からお水を持ってきたり、動いていればなんとか持ち堪えられた。 「うん、それくらいは出来……うわっ」 「あぶなっ」  着替えの途中で何かを取ろうとした課長は、バランスを崩して倒れた。まぁ、ベッドの上だったから良かったのだけど。良くなかったのはベッドと課長の間に私がいたこと、つまり課長に押し倒された形となっている。  そして、何故か課長の顔が近づいてくるーーやばいよ、このままじゃーー私はギュッと目を閉じた。  あれ? 何も起きなかったのでゆっくり目を開けると、至近距離に課長の顔があって、悲しそうな目をしていたから。  私は、課長にキスをした。
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