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ハロウィンの夜
――プルルルル…プルルルル。
「はい、門崎建築設計事務所でございます」
いつものように2コール目で渡利さんが電話に出た。反応を見るにクライアントからで、すぐ俺に電話を回すだろう。
そう思って、彼女が一通り相手の用件を確認した様子を感じ取り、ちらりと彼女に視線を移した。
同じくこちらを見ていた渡利さんが「はい、ではお繋ぎ致します」と言って、保留に切り替える。
「門崎さん、遠藤様から先日の打ち合わせの件で…」
「うん、出るよ」
そう言って俺は電話に出る。クライアントの質問に打ち合わせの資料をパラパラとめくりながら答えていく。
相手は納得した様子で締めの挨拶に移った。
ガチャと通話が切れたのを確認し、俺は受話器を置いた。
「遠藤様、けっこうかけてきますね。…心配性かな?」
渡利さんは自分のカップにコーヒーを入れ直し、席についた。渡利燈子はうちの経理を担当してくれている、しっかり者の2児の母親だ。年齢は俺の方が年上だが、姉御気質な彼女に俺は時折たじたじになる。
「まぁ、何も聞かれないのも不安になるけどね」
俺は門崎紘一、43歳。
大学卒業後は設計事務所に就職し、数年前に独立して、こじんまりとした個人事務所を構えた。
どんな人でも入りやすいように、オフィスらしくないカフェのような一軒家を事務所としている。
1階は初めてのお客さんとの簡易的な打ち合わせスペースと、自分達のデスク、カフェスペースがあり、2階にはモデルルームとしてリビングとキッチンスペースを設けた。
建築の話が進んだお客さんと設計図や建築模型などを見てもらうスペースとしても使っている。
あとは倉庫部屋が2部屋ある。
電話も鳴らず静かな時間が流れると、微かにかけているBGMがようやく耳に入る。
渡利さんのコーヒーの香りがふんわり漂い、俺の脳も「コーヒーが飲みたい」と言ってきた。
立ち上がり、最近新調したばかりのコーヒーメーカーにカップを置いて、出来上がりを待つ。
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