アクマの存在

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力なく床に座り込み、ソファに背を預けた。 ふとテーブルの上にアクマが使っていた画用紙があることに気がついた。手に取り、表紙をめくる。 オムライスの絵があった。 ――おいしかった、ありがと。 2枚目には何匹もの動物が描かれ、中央に俺と麻里奈、アクマの絵が描いてあった。 ――また、いきたい。 それぞれの絵に頑張って書いたのだろう、子どもらしい文字が添えられていた。 「…また、会えるのか? アクマ…」 *** その後、職場の皆にも麻里奈との結婚を伝え、アクマのことは無事に親戚のもとへ帰ったと伝えた。遠い親戚だから、今後会うことはなさそうだ、とも。 麻里奈にも同様の話をした。不可思議な出来事については身重な麻里奈に伝えるのはやめようと思った。あまりショックを与えたくはない。 アクマがいなくなった寂しさを、俺は何かで埋めようと、仕事や結婚と出産に向けての準備の忙しさの中に身を投じた。 忘れることのできない思い出をそっと心の片隅に仕舞ったまま――。
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