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11月のある日、あたしは眠くて眠くて、仕方なかった。 放課後帰ろうとしたけど寄り道をして、学校の裏庭にあるお気に入りの隠れ場所で眠っていた。 もともと猫なので、外で寝るのに抵抗がないし、そういう場所を見つけるのは得意なのだ。 大きな伸びをして、そろそろ帰ろうと立ち上がりかけた。 その時、裏庭に人影があるのに気づいた。 慌ててまた茂みに隠れる。 そこにいたのは、あたしたちのクラス担任の湯田先生だった。 辺りをキョロキョロ見回している。 こちらが見えそうになって、あたしは反射的に身を隠した。 次に顔を出した時には、湯田先生は立ち去るところだった。 あたしもそろそろ家に帰らなきゃ。 あたしはあくびを一つして、隠れていた茂みから立ち上がった。 翌朝は空が分厚い雲に覆われていて、薄暗い朝だった。 あたしたちのクラスで事件が起こる。 「先生、うちのクラスの三人の上履きが見当たりません」 学級委員長が担任の湯田先生に報告する。 クラスの中で3人もの生徒の上履きが朝から見当たらなかった。 なくなった上履きの持ち主の三人の内の一人は、あたしだった。 学校名の入ったスリッパを借りた足元が心許なくて、足をパタパタとさせてみる。 朝の会から臨時ホームルームに雪崩れ込み、クラス全員で上履き探しが始まった。 みんなで探して三十分くらい経った頃、三人の上履きが見つかった。 体育館裏の側溝の水溜まりの中に投げ込まれていた。 クラス内がざわめいている。 「犯人、誰だよ?」 「このクラスのやつだよな、絶対」 そんな声があたしの耳に聞こえてくる。 「とりあえず、一旦休憩にしよう。次の時間に話し合いをするぞ」 そう言い置いて、担任の湯田先生が教室から出て行った。 途端にクラスメイトたちは一斉にしゃべり始めた。 当然、犯人は誰かという話題だ。 「神坂じゃねーの?」 一人の男子が小さな声でボソッと言った。 なに? それは聞こえるか聞こえないかくらいの大きさだったけど、残念ながらあたしには聞こえてしまった。 海斗が横でため息を吐く。 みんな、やめてよ! 海斗がそんなことするわけない!! あたしは立ち上がった。 「海斗はそんなことしないよ!!」 大きな声で叫んだ。 教室がしん、とした。 「なんだよ、冗談だよ。マジにとるなよ」 発言した男子がごまかすように言った。 それで教室はまた元通りザワザワし始めたけど、あたしはしばらくその場に突っ立ったままだった。 誰かが服の裾を引っ張った。 見ると、隣の席の海斗があたしを見上げていた。 「座れば?」 その声で、あたしは力が抜けたみたいにすとん、と椅子に座った。 「ああいうの、ほっといていいよ」 悪口を言われたのは海斗の方だったけど、なぜかその本人があたしをなぐさめる形になっている。 「だって…」 うつむいて、泣きそうになる。 くやしかった。 なんでみんな、海斗が優しいって知らないんだろう? 「海斗のこと、みんな何も知らないのに…」 「いいんだよ。知らせてないんだから。誰とも関わらないようにしてきたのはこっちだから」 海斗は言った。 あたしは海斗の疑いを晴らそうと心の中で固く決めた。 湯田先生が戻ってきて学活が再開された。 「全員机に伏せて、目をつぶって。この中に三人の上履きを隠した人、いたら手を上げなさい」 と先生が言う。 もちろんそんなので犯人は出て来るわけもない。 なんとなく落ち着かない空気を残したまま、その日は終わっていった。 裏庭、と聞いてすぐに、昨日の湯田先生の姿が思い出された。 でも先生はみんなと一緒話になって一生懸命上履き探しをしていたよね。 海斗は何事もなかったように淡々と過ごしていたので、あたしもそれにならった。 学校と海斗の周辺注意深く見守ることにした。
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