8

1/2
前へ
/33ページ
次へ

8

全身が痛い。 海斗ーー。 光を感じて、重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。 頭の上の窓から朝の光が差し込んでいる。 ここ、どこだっけ……? 埃くさい。 重ねられたマット、跳び箱。 そして目に入ってきたのは床に散乱したすたくさんのボール。 バレーボールも、バスケットボールも、無惨に切り裂かれて床に転がされている。 ーー思い出した。 ここは体育倉庫。 数時間前に起こったことも。 立ちあがろうとしたあたしは、立ちくらみがしてもう一度その場に座り込んだ。 それで気づく。 朝が来て、猫の姿だったあたしは人間に変身していた。 体育館のドアが開く音がした。 足音が近づいて来る。 あたしは身を固くして緊張した。 「何これ……?キャッ!」 倒れ込んでいるあたしの頭の上で声がした。 見上げると何かのユニフォームを着た女の子が口に手を当てて立っていた。 あたしを見て、駆け寄ってくる。 「ちょっと、大丈夫?!」 「す、すみません……」 あたしは頷いて、身体を起こす。 ふらつく身体を女の子が支えてくれる。 「このボール、あなたがやったの?!」 「ちがいます……。来たら、こうなってて。びっくりして、倒れちゃって……」 そんなには、嘘は言ってない。 「そうだよね。こんなことする意味ないもんね。大丈夫?保健室行こ!」 「あなたは……?」 「私は六年の佐藤結衣だけど、部活の朝練に来たらこの有様で、びっくりしたよ、もう!」 あたしを支えて歩きながら、保健室に連れて行ってくれる。 「失礼しまーす!って先生まだいないか。誰か呼んでくるね!ここで寝てて」 佐藤さんはあたしをベッドに寝かせると、パタパタと出て行った。 あたしはすぐにまた眠ってしまったらしい。 気がつくと午後になっていた。 保健室の先生と知らない女の先生、それに婦警さんまでが事情を聞きにきた。 あたしは朝、バスケ部の佐藤さんにした話を繰り返した。 ボールを切りつけた犯人について、あたしが疑われているのかな?と思ったけど、どうもそうではないらしい。 「あれだけのボールを切り付けるのに、相当の力や体力がいるはず。女の子には無理ってことになったのよ。何か犯人の手がかりになることがあったら、教えてね」 とりあえずほっとした。 でも、放課後に様子を見に来てくれた佐藤さんの言葉を聞いて、あたしは震えた。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加