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8
全身が痛い。
海斗ーー。
光を感じて、重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。
頭の上の窓から朝の光が差し込んでいる。
ここ、どこだっけ……?
埃くさい。
重ねられたマット、跳び箱。
そして目に入ってきたのは床に散乱したすたくさんのボール。
バレーボールも、バスケットボールも、無惨に切り裂かれて床に転がされている。
ーー思い出した。
ここは体育倉庫。
数時間前に起こったことも。
立ちあがろうとしたあたしは、立ちくらみがしてもう一度その場に座り込んだ。
それで気づく。
朝が来て、猫の姿だったあたしは人間に変身していた。
体育館のドアが開く音がした。
足音が近づいて来る。
あたしは身を固くして緊張した。
「何これ……?キャッ!」
倒れ込んでいるあたしの頭の上で声がした。
見上げると何かのユニフォームを着た女の子が口に手を当てて立っていた。
あたしを見て、駆け寄ってくる。
「ちょっと、大丈夫?!」
「す、すみません……」
あたしは頷いて、身体を起こす。
ふらつく身体を女の子が支えてくれる。
「このボール、あなたがやったの?!」
「ちがいます……。来たら、こうなってて。びっくりして、倒れちゃって……」
そんなには、嘘は言ってない。
「そうだよね。こんなことする意味ないもんね。大丈夫?保健室行こ!」
「あなたは……?」
「私は六年の佐藤結衣だけど、部活の朝練に来たらこの有様で、びっくりしたよ、もう!」
あたしを支えて歩きながら、保健室に連れて行ってくれる。
「失礼しまーす!って先生まだいないか。誰か呼んでくるね!ここで寝てて」
佐藤さんはあたしをベッドに寝かせると、パタパタと出て行った。
あたしはすぐにまた眠ってしまったらしい。
気がつくと午後になっていた。
保健室の先生と知らない女の先生、それに婦警さんまでが事情を聞きにきた。
あたしは朝、バスケ部の佐藤さんにした話を繰り返した。
ボールを切りつけた犯人について、あたしが疑われているのかな?と思ったけど、どうもそうではないらしい。
「あれだけのボールを切り付けるのに、相当の力や体力がいるはず。女の子には無理ってことになったのよ。何か犯人の手がかりになることがあったら、教えてね」
とりあえずほっとした。
でも、放課後に様子を見に来てくれた佐藤さんの言葉を聞いて、あたしは震えた。
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