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あたしが叫んだのとほぼ同時に、教室のドアを音を立てて開け、海斗が転がり込んだ。
驚いて振り向いた湯田先生に反撃の隙を与えず、海斗は飛びかかった。
湯田先生を床に倒し、あたしがされていたみたいに腕を後ろに捻りあげる。
「今言ってたこと、全部録音させてもらった!立派な証拠だろ?」
海斗はニヤッと笑って、ポケットから出したスマホをあたしに投げた。
慌ててそれを受け取る。
海斗、ありがとう!!
「美雨、誰か呼んで来い!」
あたしは頷き、走り出す前にふと思いついて、海斗が湯田先生を押さえているその姿をカメラに収めた。
職員室に駆け込んだあたしは、残っていた他の先生に助けを求める。
取り乱して何を言ったか覚えていないけど、必死な様子だけは伝わったらしい。
その場にいた先生が二人、海斗と湯田先生がいる教室に駆けつけてくれた。
そうして証拠の音声が決め手となり、湯田先生の悪事は明らかになったのだ。
*
でもそれから、あたしは夜中に怖い夢を見てうなされることがたびたびある。
湯田先生が笑って子猫のあたしの上にボールペンを振り下ろす夢。
ある時はあたしはボールで、湯田先生がカッターナイフを持ってやってくる。
叫んで逃げたいけど、身体が全然動かないのだ。
助けて……!
そう思った瞬間、暖かくて優しい手があたしの背中に乗る。
何度も何度も、落ち着かせるように撫でてくれる。
あたしは安心して、あぁ、さっきのは夢だったんだ、と思い、そのまま眠ってしまう。
早朝に目が覚めると、猫の姿であたし海斗の胸の上にいた。
身体の上に海斗の手が優しく置かれていて、それで安心して眠れた事を知った。
ありがとう、海斗。
寝ている海斗の顔をひと舐めしてから、あたしはいつものように夜が明ける前に窓から外に出る。
神社で人間の美雨に変身するために。
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