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「あの写真、神坂君だよね?」
「大人の男の人をやっつけちゃうなんてかっこいいよねぇ…」
湯田先生と対決した時にあたしが撮った写真は、音声記録と一緒に証拠として学校から警察に提出され、気がつくとどこからか拡散してみんなの知るところとなった。
顔はよく見えないように配慮されていたけど、知っている人が見たら分かるくらいの加工。
そうしたら、海斗は一躍ヒーローになってしまったのだ。
みんなが海斗に注目して、海斗を見直してくれたのはすごく嬉しかった。
でも同時に、女の子の注目も集めていて、海斗は何回か女の子から手紙をもらったり、呼び出されたりしていた。
昼休み、さっきも同じ学年の違うクラスの女の子ニ人がやってきて、海斗を教室から連れて行ってしまった。
あたしは気になって、つい後をついていった。
体育館の裏まで来ると声が聞こえて来て、慌てて体育館の影に隠れる。
「海斗君、付き合ってる子がいるの?」
「いないけど……」
「じゃあ好きな子でもいるの?」
「……なんで君たちに言わないといけないの?」
「この子があなたのこと好きだからよ!お試しでいいから付き合ってみるっていうのはどう?」
海斗のことを好きな子自身は真っ赤になって下を向いてしまっている。
長い髪を二つに結んだ可愛い子だ。
その横で友達が海斗に迫っている状況らしい。
「俺、今一番大事にしてるヤツがいるんだ。だから時間、ない」
あたしはドキッとした。
「女の子なの?!」
「……まぁ、そうだね」
「名前は?!」
「ミウ」
「海斗君のクラスの転校生の子?!」
海斗は否定も肯定もせず、肩をすくめた。
俯いていた女の子が、食い下がろうとしている友達の袖を引っ張った。
「もういいよ、帰ろう…」
「でも!」
「もういいの」
二つ結びの子は、首を振ると、
「海斗君、来てくれてありがとう。あの、美雨さんと仲良くね」
そう言って、来た時と逆に友達の手を引っ張って立ち去った。
海斗はそれを見送ると、独り言みたいに付け足した。
「猫だけどね」
ガーン!
ドキドキして損した……。
でも、猫のあたしのことを大事にしてくれてる海斗がやっぱり大好き。
あたしが一人百面相していると、海斗がこっちを見て言った。
「隠れてないで出て来たら?」
ば、ばれてる…。
あたしはおずおずと体育館の陰から顔を出し、海斗の前まで歩いて行った。
「ごめんね、聞くつもりじゃなかったんだけど…」
「多分、戻ったら俺たち婚約者かなんかにされてるかもな」
「こっ、こんやくっ?!」
「というのはもちろん冗談だけど。悪い、なんか急に構われ始めて面倒だから、しばらく誤解を解かないでおいてくれる?」
あたしは全然構わないんだけど……と美雨は思う。
「海斗がいいなら……」
昼休みの終わりのチャイムが鳴り始めて、あたしたちは教室へと急いだ。
そのことがあってから、クラスの女の子たちが興味津々という感じであたしに話しかけてくるようになった。
「山中さんて、神坂君と付き合ってるってホント?!」
「うっ、いえっ、えーっと、付き合う手前っていうかなんていうか……」
海斗に誤解はそのままにしておくよう言われたけど、嘘を言うのも心苦しい。
海斗の方をチラッと見ると、すました顔して知らんふりを決め込んでいる。
あたしがしどろもどろになっていると、
「じゃあいい感じまでいってるんだね」
「へぇー、あのあんまり人と関わらない神坂君がねぇ」
「よし、うちらで二人を応援するよ!セッティングするから、クリスマスに二人でお出かけっていうのはどう?」
「いいね!」
「遊園地とかがいいかな?」
「いいんじゃないいいんじゃない?」
当のあたしを置き去りにして、女の子たちはノリノリで話を進めて行く。
そして海斗のところに行って、何か話して帰ってきた。
「山中さんっ、今神坂君からOKもらって来たよっ!来週の日曜日、9時に駅前で待ち合わせね。その前にあたしたちで洋服とか髪とか可愛くコーディネートしてあげるから、山中さんは8時にあたしんちに来ること!」
「きゃー!楽しみ!どんなのがいいかな?」
女の子たちは勝手に盛り上がっている。
「山中さんに似合う服、探しておくからね!」
……ということになってしまった。
海斗、本当にOKしたのかなぁ?!あの海斗が?あたしはなんだか信じられないまま、半信半疑で当日の朝を迎えた。
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