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綺麗に彩られた街を海斗と歩く。 クリスマス前の街並みは、歩いているだけで心が弾む。 色とりどりの飾りや赤と緑のコントラスト。  パン屋さんでサンドイッチや焼きたてのデニッシュを買って、公園で食べることにした。  よく晴れた公園では、大道芸のパフォーマンスがあったり生の楽器演奏があったり退屈しない。  ベンチに座って海を眺めながらお昼を食べようとしたら、鳩が寄ってきて大変なことになった。  そんなハプニングもいちいち夢みたいに楽しい。 この時間がずっと続けばいいのに。 公園の街路樹にだんだんとイルミネーションが輝き始める。  その温かくて優しい光にあたしは見惚れていた。  だから、気づかなかったのだ。  神社まで歩いて来たときには、ほとんど日が沈みかけていた。 「海斗っ、今何時?!」 「4時半前だけど…」 東京の日没はこの時期16時半前後。 覚えていたはずなのに……。 しまった!耳が出てきちゃった…! 頭を押さえてそれを隠したけど、遅かった。 時計から目を上げた海斗が、呆然とした顔であたしを見ていた。 「お前、それ…!?」 あたしは頭に生えた耳を押さえたまま、海斗を上目遣いで見上げた。 「……見ちゃった…よね?」 海斗は何か言おうと口を開けたけれど、次の瞬間、フッと目を閉じた。  そのままその場に倒れ込む。 「海斗?!」 あたしは駆け寄って、海斗を抱き起こした。 膝に抱えて、頬をぺちぺちたたく。 「海斗、海斗っ!」 名前を呼ぶけど、反応はない。 ふと辺りが白くなってきて明るくなったかと思うと、目の前に緑色の草ボールがポンポンところがっていた。 あたしを人間になれるようにしてくれた、山中神社のヤドリギの神様だ。 「神様っ、海斗はどうしたんですか?!」  『心配要らない。少し眠ってもらっただけだ』  神様は静かに言った。 『それよりも、ミウ。そなたはあんなに見られるなと言ったのに、その変身しかけた姿を見られるなどと』 「ごめんなさいっ!もうあと少しだけ、一緒にいたくて…」 あたしは必死で謝った。 「だからどうか、どうか…!」 『約束は約束じゃな。もしそなたが猫であることが知られたら、この術の効力は切れると言ってあったじゃろ』 「あたし、普通の猫に戻るの……?」 『残念だが……』 神様は、あたしの頭に手を乗せた。 「待って、神様。お願い、最後に海斗にお礼を言わせて!」 「話し終わったら全てを忘れてもらうぞ?」 「……わかりました」
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