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「あのね、言いたかったの。あの日、あたしを助けてくれてありがとうって。あたしは猫のミウだよ」
海斗は目を見て閉じたままだ。
「海斗に会えて嬉しかった。海斗に助けてもらった命だから、何かして恩返しがしたくて、神様にお願いしたら人間になれたの。昼間だけだけどね」
あたしは海斗の手をそっと取って自分の頬に当てた。
そのまま少しの間じっとしている。
「でもあたしは全然役に立たなくて、逆に学校でも海斗のお世話になるばっかりでごめんね。神様との約束で、私が猫だってわかっちゃったらおしまいなんだって。あたしはもう人間になれないし、海斗の記憶は消されちゃう。でも、楽しかった……ありがとう、海斗」
海斗の指先がほんの僅かに動いたように思ったけど、気のせいだったかも知れない。
辺りが真っ白に光る。
海斗の右手をつかんだあたしの両手が変化していくのが分かった。
あたしの手はだんだんと縮み、やがて猫の手になる。
あたしは海斗に寄り添うように横たわった。
徐々に体が縮んでいくのが分かった。
あたしは完全に猫の姿に戻っていた。
『猫は猫の一生を全うしなさい』
神様の声がする。
『美雨に関わる人間全ての記憶を封印する』
急に身体が重たくなってガマンできずに目を閉じると、ひとつぶ涙がこぼれた。
そのまま、あたしは意識を失った。
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