おばけはちみつのグリセルダ

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おばけはちみつの森  おばけはちみつの森は、村はずれにある人気(ひとけ)のない小さな森だ。名前の由来はいたってシンプル。ここには古い養蜂場の廃墟があって、今でもそこの森の奥の方に、ひっそりとその姿をとどめている。1階建てだが、天井は高く広々とした建物だ。壁は古い茶色の煉瓦でできていて、壁の大部分は深く蔦におおわれている。屋根は一部が壊れて雨漏りがする。使われなくなってから、もうかれこれ40年以上は経っている。夕暮れ時の薄暗がりで見ると、たしかに不吉な、悪霊でも出てきそうな威圧感を感じる者も―― あるいは少なくないかもしれない。  村の北のはずれにあるこの森を、わざわざ訪れる人は少ない。雨季の終わりごろには、美味しいキノコがとれたりするが―― 毎年みんながとるので、今は昔ほどは生えなくなっている。乾季の終わりころには、野生のモラ(各種のベリー)が一部で実る。また、ロブレの木々にまじって生えているシルウェラの大木が、モラの季節に合わせるように、深いサクランボ色をした甘い果実を実らせる。それを求めてやってくるのは、たいてい村の子供たちだ。  森の入り口にはあちこちゴミも捨てられている。古タイヤや、空になった危険な農薬のボトルや、空気の抜けたサッカーボール、村の旧家を取り壊した後のコンクリートの瓦礫。外からひと目見る限り、おばけはちみつの森は、けっして綺麗な場所には見えない。犬の糞も多い。だからたいていの大人たちは、子供たちが「おばけはちみつの森に行く!」と言ったら、あまりいい顔はしない。もっと道路の向こうの公園や、明るい畑の方で遊んでおいで! 森には幽霊も出るっていうし、行かない方がいいよ!と子供たちに言ってきかせる。  おばけはちみつの森はひっそりとしている。風が吹くと森の木々はおおきくざわめき、それはどこか人を拒絶する、暗い響きを含んでいるようだ―― …というのは、あくまで村の大人たちの視点だ。
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