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ホセマリア(2)
「えっと。ねえ、きみ―― 名前は――」
「グリセルダ」
「えっと。じゃ、グリセルダ。ねえ、しばらくこのあたりに、牛たちを、置いてもいいかな? このあたり、けっこう、いい草があるみたいだし。牛は特に絵を見る邪魔をしたりは、しないと思うんだけど――」
「…いいよ。別に。とくにここは、全部がわたしの森ってわけでも、ないから…」
気のない返事をグリセルダは返す。
「…えっと。ねえあなた、名前―― なんだっけ?」
「おれ? おれはホセマリア」
「ホセマリア。えっと。そのさ。言いにくいんだけど。牛はいてもいいし。きみも別に、いてもいいけど。あんまりじろじろ、画面見ないでくれる…? なんだかちょっと、落ち着かないっていうか。イラストは、できたら、ひとりで、しずかに見たいの」
グリセルダは言う。声はとくに、冷たくはなく。ただ、そこにある文字の列を、そのまま無気力に読み上げるかのようで。
「あ。ごめんごめんごめん! もう見ないし! 勝手に見ちゃって悪かったよ!」
まるで着替えているところを、うっかり見てしまったような勢いで。瞬時に勢いよく体を反転させて、ホセマリアが森の反対側に向き直る。
…そこまで極端に、別方向見ろとまでは、言ってないけど――
こっそり心の中で溜息をついたグリセルダ。その口元は、少し、かすかに、笑っていたかもしれない。なんだか単純でわかりやすい男の子のようだけど―― まあでも。それほど特に、悪い気はしなかったのも確かだ。
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