おばけはちみつのグリセルダ

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ジュリコ(1)  ジュリコ、と名乗った。その女の子は。歳は今年で14で、ここの村じゃなく、山の上の本町のお屋敷に住んでるのだと自分で自分を紹介した。山の上の、オベイラ家って知らない? あそこが家よ、と。ジュリコは言った。町でも有数の資産家の娘なのよ、と。自慢げに言って長い髪に手をやったけれど。あいにくグリセルダは初めて聞いた。村の人たちの苗字でさえも、たいしてぜんぜん、まだ知らない。ここから遠い、本町の家の名前とか。ぜんぜん、知っているはずもない。  そう答えると、ジュリコは少しがっかりしたようだったけど。でもま、いいわ。と言って、なんだか勝手知ったる感じで、そこのカーペットのクッションの上にぺたりと座った。ねえねえ、何か、レフレスコとかないの? のど、ちょっと渇いちゃったわよ、と。なんだかあつかましくも飲み物を要求したのだけど。  でも、あまりにもその、言い方に悪気がなくて自然だったので。なんだかグリセルダの方でも、特に腹が立つとか、あつかましいとか、そういう気持ちにならないから不思議だ。あるよ、と答えて。向こうの冷蔵庫から、ハリトスのボトルを持ってきて、コップについでジュリコに手渡した。  ふたりでタマリンド味のハリトスを飲みながら。ジュリコの話をきくところでは、ジュリコはときどき、ここを夜の秘密のデートの場所に、以前から使っていたとのことだ。月に何度か、町の男の子と、夜、ここでこっそり遊ぶのだと。だから、その隠れ家にいきなり電気がついていたものだから。びっくりしたわよ、そりゃあ。と。ジュリコは言ったのだけど。じっさい、外での会話を拾い聞きしたグリセルダに言わせると、あまりたいして、驚いた様子もない感じはした。逆に相手の男の子の方が、怖がって一目散に逃げてしまった。何かこの―― ジュリコという女の子には―― とても自然な堂々としたあつかましさ、度胸、みたいなものが備わっていて。いろいろ口調は偉そうな感じもするけれど。でも、不思議と嫌味な感じはしなかった。ちょっぴり面白い子だな、と。正直グリセルダはこっそり思いはじめている。
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