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何もない午後 (6月28日)
「ねえ、あんた好きな子とかいないの?」
スマホを怠惰にタップしながら、おばけはちみつのテラスのハンモックに寝そべってジュリコが言った。今日はめずらしくグリセルダの姿はなかった。たぶん、めったに帰ってこない母親と一緒に、どこかに出かけたのかもしれない。くもりの午後のおばけはちみつの森には、ジュリコとホセマリアの二人だけ。
「いないよ。別に、そんな――」
テラスの壁にもたれて古く色あせたマンガ雑誌を読んでいたホセマリアが、顔を上げて眉を寄せる。
「あら。いないの?」
「いないよ。そんなの。もちろん!」
ホセマリアは足元からハリトスのボトルを取り上げて、勢いよく口をつける。
「でもそれ、うそでしょ?」
「……?」
「あんた。グリセルダのことが好きよね? でしょ?」
ブッッ! と口に含んだレフレスコを床に吐き、ホセマリアが大きく激しく咳こんだ。
「あはは! あんた、わかりやすすぎるのよ。犬と一緒で、感情をぜんぜん隠せてないから。いつもしっぽをぶんぶん振ってる。あんたときどき、うしろからこっそり、グリセルダのこと見てるでしょ? ダメよ、隠せてないから。そのときあんた、恋する乙女の目をしてるから」
「ば、ばか、言ってんじゃないし。おれは、別に、グリセルダのことは――」
「あら。じゃ、好きじゃない?」
「…好き、とか、そういうんじゃ――」
「いいのよ別に。隠さなくても。あたしも別に、告げ口しないし。ただちょっとね。言ってみたかっただけよ。いいから、読んでてマンガ。この話題は終わり。」
ジュリコはハンモックの上で猫のようにのびをした。手にはスマホを持ったままで。
「…ねえ、ジュリコ、」
「なに…?」
「…ほんとに言っちゃダメだよ、グリセルダには――」
ホセマリアが、不安そうに、耳まで顔を赤くして。壁のそばからジュリコを見やった。
「バカね。言わないわよ。ちょっとはあたしを信じなさい」
ハンモックにねそべったまま、ジュリコがふふふ、と大きく笑う。外の森の地面には、今日初めての日が差して、小さな木洩れ日が落ち葉の地面で小さく風に揺れ動く。
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