おばけはちみつのグリセルダ

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「なんだかあいつも、たいへんそうね。バカな無責任な大人たちに囲まれて」  彼の足音が、午後の森の静けさの向こうに消えたあと。ジュリコがぽつりと感想を述べた。ファッション雑誌の「特集」のページに、特別興味もなさそうに目を落としながら。  そうだね、とグリセルダもうなずいておく。無責任な大人たち、か。言われてみれば、そうかもしれない。自分の周囲で―― とても責任感のある、立派な大人の誰かを思い浮かべようとしてみたけれど―― しばらく考えてみたけれど、それに当てはまりそうな誰かは、ぜんぜん浮かんでこなかった。  ひとりでこっそりため息をついて――  グリセルダはまた、壁際の床の上からタブレットを取り上げる。ふと見ると、充電メーターの残りが、20%を切っていた。これはたぶん、このあと午後に雨がきて―― 雷雨で停電、とかしちゃわないうちに。今のうち、充電した方がいいかもしれないなと。この時間にしてはやや薄暗い、窓の向こうの木立を見ながら―― そのあとグリセルダは、特にそれほど意味もなく、もういちどだけ溜め息を吐いた。
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