おばけはちみつのグリセルダ

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虹の根(2) 「…ったく。あたしはもっと、お洒落な、冷房きいたセンスいい場所とかに、行きたかったんだけど?」  まちがってもこんな泥とか、砂とか、ない場所にね―― 村はずれの斜面のノパル畑の、ノパルとノパルの間を縦一列で歩きながら。いちばん後ろで、ジュリコはひたすら文句を言っている。  出発前にジュリコのスマホで地図を見た限りでは―― ホセマリアが言っている、その、二つの岩山の間の場所までは。村からまっすぐ歩ける簡単な道のようなものは、ないようだ。だから途中まで、ノパル畑の間の農道をずっと南の方まで歩いていき―― しばらく何十分か、畑の中をつっきる形で。やがてそのあと、たぶん舗装された、車の通れる東西の道に出る―― そこからは、その道づたいに、わりあい楽に目標の丘の麓までは歩いて行ける――   …はずだったけど。その舗装された東西の道までの道のりが、思ったよりもずっと悪くて。足元はさっきから、ざくざく不安定な深い畑の土ばかりだ。今はまだ雨季の途中で、昨夜から今朝にかけて降った雨が、まだ乾かずに、畑の隅のあちこちで、泥のぬかるみを作っていてとても歩きにくい。靴の裏に、泥がつく。  太陽はだいぶ西に傾いてきてはいたけど、まだまだ日差しは弱くない。空はひたすらに青く、ほうきで掃いたような白い糸雲が何本も、遠くに見える岩山の上の空に動かずとどまっている。グリセルダはめったにひとりではかぶらない、麦わら帽子に近いシェイプの白の日よけ帽子を今だけかぶってきたけど。それなしで出発してきたジュリコは、日差しの下でけっこうつらそうだ。ふだん畑仕事や荷物運びの手伝いをしていて小柄なわりに体力のあるホセマリアは、ひとりでどんどん、先まで行きたがったけど―― ジュリコとグリセルダの足取りが遅いため、なんども先で足を止めて、じれったそうにノパル畑の真ん中でひとりで立って待っている。二番目を歩くイサベラは―― 見た目は小柄で華奢なのだけど、意外と体力あるらしく―― ときどき服のそででひたいの汗をぬぐう以外は、文句も言わずに、もくもくとホセマリアの背中を、しっかりした足取りで追いかけている。
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