おばけはちみつのグリセルダ

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虹の根(4)  結果はわりと、失望するものだった。  遠くから見ていた、青空の下に鮮やかに浮かぶ赤いドームのその色は、近づくごとに、なんだか色が、あせていき―― その建物の外周の壁のそばまで四人が来たとき―― 「…廃墟。だよね? たぶん――」  壁の向こうに陰気にそびえる、その丸天井の建物を見上げてホセマリアがつぶやいた。  遠目ではお洒落に特別に見えていた、丸い赤いドームの下は――  窓も、外壁すらも建築途中で放り出されて完成しないままで放置された――  くすんだ灰色の、コンクリートの建物の出来損ない――   それが、グリセルダの目からみた、率直な印象というか。そこにある事実、そのものだ。  そこにはお洒落な要素も、ワクワクする要素も何もなく。長年の風で運ばれてきた枯草や何かのゴミが、その、不完全にしか作られなかった未完成のドームの下の、がらんとした廃墟の壁の中に吹きだまっている。 「…なによ。ガッカリよね。お洒落なハイクラスのホテルじゃなくても―― せめてなんかちょっとは、うきうき立ち寄りたくなるような。綺麗なモノだと、ちょっとは期待してたのに」  投げやりな感じでジュリコが放ったその言葉は―― いまそこに立って見上げる四人の心に、ひとしく浮かんだ素直な感想だっただろう。言葉はとくに発さなかったけれど―― なんだかグリセルダも、さっきよりさらに、脚がつかれて心が重くなった。けっきょく、私たちの暮らす場所の近くには。特別な綺麗なものとかは。やっぱり何も、あるはずもない―― 「…ねえ。ほんとに行くの? あそこの丘まで?」  イサベラが、ほかの3人の顔を順々に見て言った。声には少し、疲れた響きがあるようだ。 「…さあね。あんたはどうなの、ホセマリア? やっぱり今でも、あそこまで行きたい?」  風雨に打たれてあちこちひび割れたグレイの外壁にもたれて、地面の石を遠くに蹴りながら。ジュリコが気のない言葉をその場に投げた。 「…行くよ。あとちょっとで、着くじゃない? もうたぶん、道のはんぶんは過ぎてるよ。ここまで来たなら、そこまで行かなきゃ。もったいないよ」  そう言って東の畑の先を見つめるホセマリア。でもその声も、あまりそこには、自信は特にはなさそうだ。麦わら帽子をいちどはずして、ホセマリアが腕でひたいの汗を大きくぬぐった。彼が見ている東の方角には、夏草に覆われた二つの大きな岩山が―― 出発したときよりも、だいぶん近くにくっきりはっきり見えている。そしてその間にある、ゆるい斜面のひらべったい丘も―― だいぶ近くに、見えていた。でも、今はあまりそこが―― 『虹の根』などという、何か特別な場所のようには、正直あまり見えていないのは確かだ。グリセルダの目に映るその場所は―― 単なる、どこにでもある近くの丘のひとつにしか、今は正直、思えなかった。
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