おばけはちみつのグリセルダ

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ホセマリア(1) 「えっと。お、おれは、ホセマリア。きみは―― たぶん―― おばけはちみつに、引っ越してきた、女の子、だよね?」  ホセマリアを名乗った少年は、明らかにわかりやすく照れながら、当たり前すぎて答えに少し困る質問を早口で投げかけた。おそらくとくに、その質問の答えが知りたいわけではなく―― とっさにそれしか、言葉が出てこなかったのだろうと。なんだか冷静に、グリセルダは少年の言動を分析している。まあでも、とくに悪い気はしなかった。素直にこの子は、自分を助けようとしてくれたみたいだし。 「でも―― あなたはいったい、こんなに朝早くに―― なんでここに、来ているの?」  うっかりテラスの床に落としてしまったタブレットを、そうっと大事に取り上げて―― グリセルダが小声で問いかけた。おばけはちみつ。村の中心からも、少し離れている。普通はここに、来る用事などはなさそうだけど―― 「えっと。それは―― うちの父ちゃんがさ。ほらあそこ。牛たちに――」  まだ少し照れながら、少年が森の向こうを指さした。うっすらと朝霧のただよう木々の向こうに―― 二頭の大きな茶色の牛が。のっそり、もっさり、地面の草を食んでいる。予定よりも早く、納屋の飼い葉がなくなってしまったので、牛たちに、外のどこかで草を食べさせてくるようにと。父親に言われて、朝、ここまで連れてきたらしい。 「父ちゃん自身は、腰が悪くて。あんまりいろいろ、外で仕事ができないからさ。おれがかわりに、牛の面倒、見ているんだよ」  ホセマリアは、なにかの言い訳をするように、視線を左右に言ったりきたりさせながら、グリセルダに事情を説明した。  あっそう、と。短く返事をかえし、グリセルダはもう少年から興味を失くしたみたいに。テラスの床にちょくせつ座って、タブレットの画面をふたたびオンにする。 「なにそれ? なに見てるの?」  不思議そうに、ホセマリアがタブレットの上に顔を近づける。 「イラスト、だよ」  相手を見ずに、グリセルダが言う。 「いいすとって何?」 「絵とか。マンガとか。インターネットの、ね」 「すげぇ。ここ、インターネット見られるの??」 「…ここに限らず、どこでもネットにはつながるよ。公共の無料Wi-Fiのボックスが、村のあっちこっちにあるでしょ?」 「むりょうわいふぁい? それって何…?」 「………」  ちらりと視線を少年に向けたグリセルダ。でも、説明が面倒だと思ったので、それ以上とくに解説してあげることはしなかった。
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